なんてことない日常のひと時を
はしゃぐ墨亜とそれを追いかける碧ちゃんを連れながら、私達は準備してくれているはずのお昼を食べるために皆のところへ向かう。
走り回る墨亜は楽しそう。諸星のお屋敷がいくら広いとはいえ、あまりお庭で走り回って遊ぶということはしないし、女の子というのもあって年頃になればなるほど外遊びからは遠ざかるもの。
学校も郡女というお嬢様学校だから、外で遊ぶのは一際やんちゃな子だけだろう。
「ナイスタイミングです。ちょうど呼びに行こうかと思ったところなんですよ」
「BBQの準備、万端っすよ!!」
真っ先に出迎えてくれた紫ちゃんや舞ちゃんの言う通り、レジャーシートと折り畳みのテーブルが広がるその更に奥では十三さんがバーベキューコンロの前で腕まくりしながらいつになくウキウキした様子でアウトドア用の折りたたみ椅子に腰かけていた。
「おっほー!!BBQ!!サンドイッチとかだと思ってたけど、めっちゃ豪華じゃん!!」
「今日は先日の祝勝会を兼ねようと思いまして、私どもの方でご用意させていただきました。何か召し上がりたいものがございましたら、お申しつけください。こちらでご用意させていただきます」
外でのお仕事とあって、美弥子さんも十三さんも今日は目立つメイド服や執事服ではなく、ごく一般的な動きやすい服装に身を包んでいる。
それでもメイドさんであることを忘れずに丁寧にお辞儀をして説明をするのは流石は美弥子さんだなと思う。
「焼き加減は私めにお任せください。お好きな物を最高の焼き加減でご提供いたしますぞ。もしよろしければこの爺の話し相手になりながら、一緒に焼いていただければ幸いですな」
「そういう訳だ。シェフやらお義母様やらがあちこちに掛け合って良い物ばかりが揃ってる。腹いっぱい食ってくれ」
他にも別の車でついて来ていた他のメイドさんや執事さん達がクーラーボックスの中から美味しそうなお肉や海産物、野菜などなどを取り出してみせる。バーベキューの定番の食材はもちろん、中には見た事のない調味料やお菓子もある。
特にお肉は多分ウチのシェフが今用意できるバーベキューに最適な最高のお肉を用意したんだろうなぁ。なんだか張り切っているのをみたもん。
わいわいと騒ぐ私達は思い思いの場所に腰を下ろすと、バーベキューというにはあまりにも至れり尽くせりなバーベキューが始まったのだった。
「う、うまーい!!っす!!」
「えっ、うわ、なにこのお肉。噛んでないし煮てもないのに口の中で勝手にほぐれるんだけど」
「脂が甘い、なんてテレビでよく聞きますけど、これがそうなんですね……!!」
頂きまーすと焼き終えたお肉を口に入れた面々が口を揃えて感激の言葉と共にお肉を口に入れていく。お皿に盛られたお肉は皆それなりの量があったはずなのに、全員が全員ぺろりと平らげてしまうのは成長期だからこその食欲と身体が資本の魔法少女だからこそだろう。
「うっめぇ~~!!おいおい、お前ら普段からこんなの食ってるのか?!」
「まさか、ここまで上等なのは何かの祝い事の時くらいだよ。普段はもうちょっと手頃なランクと部位さ」
千草の言う通り、普段諸星で出ているのはA3くらいの等級、たまにB5とかも出るけどそれ以上の等級のお肉が出るのは誰かのお祝い事とかくらいだ。
部位も程々のお値段の物だ。そりゃそうだ、普段からの食生活からお金を掛けるのが良いって訳じゃない。美味しい物はたまに食べるから美味しいのだ。
それに、美味しい物は食べ過ぎると通風の原因にもなる。早いと20代前半とかでなってしまう人もいるらしいから、贅沢は程々が一番なのだ。
といっても、諸星家で扱われている食品は、一般家庭のそれを軽く飛び越えてはいるんだろうけど。
うーん、スーパーの硬いお肉が懐かしい。もぐもぐ。
「ち、因みにこのお肉はどういった……?」
「ふふっ、我がシェフがあらゆる伝手を使って急遽取り寄せた最高級A5ランク和牛、そのシャトーブリアンですよ。今皆さんがいただいているのは」
「シャ?!」
「あばばばばば、パパとママになんて言えば……」
割と一般人的感性を持つ紫ちゃん、朱莉、舞ちゃんが度肝を抜かれたような表情を浮かべている。
舞ちゃんに至ってはご両親に今日の昼食の感想をなんて伝えるべきか悩んでるみたいだ。
いや、まぁ、ご飯にお呼ばれしてホイホイ来たら、お店で食べるなら今のご時世だと間違いなく一切れで5桁のお肉を既に舞ちゃんは6枚ほど口にしている。
元庶民として分かるよ、その感覚。
「ばっか、お前それなら死ぬほど食うんだよ!!いくら魔法少女だって、シャトーブリアンなんて食べるチャンス早々無いんだぜ!!食わせてもらえるなら食った方が良いに決まってらぁ!!」
「碧様の言う通りでございます。お気になさらず、お腹いっぱいになるまでお召し上がりください。皆様はこれくらい当たり前の成果を上げられているのですから」
ガツガツと容赦のないお代わりをしまくる碧ちゃんがある意味この場では一番正しいことを言ってるのかも。
頂けるなら頂いた方が良いよね。あむっ。
因みに、妙に静かな墨亜も一心不乱に食べている。意外と墨亜も食べるの好きなのよね。フィジカルトレーニングを始めてから尚の事らしいけど。
「きゅっ!!きゅーっ!!」
「にゃーぅ、にゃーっ!!」
「えっ、君らもう食べたのかい?お代わりならもうちょっと待っておくれよ」
「流石は魔獣……、胃袋だけなら若い子以上ね……。お肉たりるかしら?」
「シェフに連絡するか。文字通りモンスター二匹が大暴れだ」
……こっちも妙に静かだったパッシオとリオ君の二匹だけど、それはもうガツガツ食べてるみたい。
あんまり食べ過ぎて、迷惑かけさせないようにしないと。
随分昔にA3のステーキをいただいたことがありますが、A3ですら未体験領域のお肉でした。口の中でマジで溶ける。A5ランクのお肉、いつか食べてみたいですね……




