市街地討伐戦、完遂
そこまで考えて、もしかしてブーブー震えているのはメモリーではないかと思い至る。
すぐにイキシアのメモリースロットから真紅のメモリーを抜き取ると、メモリーは振動を止めて、その色を失う。同時に私の魔法少女のコスチュームもいつもの純白のそれとストールに戻る。
ルビーの方も、リオ君がメモリーから飛び出した時点でいつもの姿に戻っていた。
空のメモリーに繋がりの力で無理矢理詰め込んだ魔力はどうやら一過性みたいだ。
ルビーの方はまた別の法則だとは思うんだけど、次に使う時は改めてパッシオやリオ君の協力が必要になりそう。その辺り、少し検証がいるかな。
「リオ君お疲れ様。ルビーを手伝ってくれてありがとうね」
「にゃにゃー」
じゃれるリオ君と片手で遊びながら、私はルビーの治療に改めて向き合う。検証に関しては後回し、今はこの戦いの勝利の余韻を味わいながら、ルビーの怪我を治して、皆のところに向かわないと。
あっちはあっちでやる事が山ほどあるはず。怪我人だって少なからずいるはずだ。ここは元看護士の腕の見せ所よね。
「ちょっとリオ、アリウムの邪魔しないの」
「にゃおん」
「良いわよ。このくらいなら」
「にゃうにゃう」
邪魔をするなと注意されたリオ君だけど、邪魔にならない程度のじゃれつきなのでこのくらいなら問題ない。まぁ、確かに両手が使えた方が楽なのは楽なんだけどね。
なんて思っていたら、リオ君が膝の上に登ってごろんと丸くなり始めた。猫だなぁ、自由で大変よろしい。
「悪いわね、ウチのペットが」
「可愛いから良いわ。パッシオもよく膝の上で寝てるし」
ペットはとても癒される。パッシオは正確にはペットじゃないけど、あの見た目はやっぱり小動物のそれだから、寝ている姿とか、何かで遊んでいる時の姿は案外可愛らしい。
本人に言うと、すごーく不服そうな顔をするから言わないけど。すぐ拗ねるんだもの、男の子ってホントめんどくさい。
「パッシオも可愛いわよね。リオは結構ふてぶてしいわよ」
「パッシオも割とふてぶてしいと言うか、小うるさいかな。あれこれ文句を言ってくるから」
「あー、分かるわ。ペットはペットなりの主張が激しい時あるわよねぇ」
そのままペット談議になったんだけど、私とパッシオは本当に会話だから文句はちゃんと文句なのよね。
結構、猫も不満な時は自己主張して来るって聞くし、その辺りは結局一緒なのかも。
「さ、治療終わり。皆のところに向かいましょう」
「ありがと。やる事はたんまりあると思うし。私は瓦礫の撤去作業の手伝いかなぁ。アリウムは怪我人の治療かしら?」
「そうね、心得はあるからそうなると思う」
寝ているリオ君を起こし、膝から降りてもらって私達も立ち上がる。治療も何事も無く終わったとくれば、次にやるのはこの戦闘でボロボロになった住宅街の復旧作業と瓦礫等の撤去作業、他には怪我人の治療などなど。
殆どは行政側がやる事だけど、魔法少女として出来ることも多いから、そちらを補助をするべきだろう。
「色々報告することも多いわね」
「その辺りは政府所属に任せるわ。野良の私は管轄外だし」
「というか、アンタ雛森さんに謝っておきなさいよ。この前逃げ出したせいで、あの人めっちゃくちゃ凹んでたわよ」
「……それはちょっと悪いことしたわね」
先日の逃走事件で、雛森さんには心労をかけたみたいだ。それに関しては確かに個人的に謝罪をした方が良さそうだ。初対面とは言え、人見知りを発動して逃げ出したなんて、申し訳ないことこの上ない。
こっちも色々事情があるから、お役人さんとの接触を控えるように言われてたのもあるけれど、度々人知れずお世話にはなっている筈。挨拶の一つくらいはしないと。
そう思いながら、私達は皆が避難誘導をしていた方向へと足を向けた。




