それぞれの魔法少女
後ろで地団太を踏んでいるフェイツェイを去り際にチラ見しながら、俺はノワールの可愛らしさを思い出しながら頬をだらしなく緩める。
可愛らしい子供と言うのはそれだけで癒しだ。俺が無類の子供好きというのもあるが、今まで出会った魔法少女の中でも擦れてなく純粋な少女であるノワールは猫かわいがりしたくなるような愛らしさがある。
「ご機嫌だね」
「可愛い子を見たら誰だってそうならない?」
「んー、綺麗な女性だったらそうなるかな」
「現金というか、たまに下世話よねパッシオって」
前職である看護師になる前は、保育士になるか、看護師になるかで悩んだものである。
結果として、当時の俺は看護師になることを選んだが、まさか回り回って魔法少女をやることになるとは、誰も予想してなかっただろうな。
「……ん、アリウム追加の魔獣だ、行けるかい?」
「問題無いわ。早速向かいましょう」
感傷に浸りながら、もといた場所の近くで変身を解除できそうな場所を探していると、パッシオが新たに魔獣の気配を感知する。
どうにも今日は忙しい一日の様だ、あまりこの夏の気温の中で買って来た食材を放置したくは無いのだが、仕方がない。
二つ返事で了解した俺は、パッシオの案内を受けながら現場へと駆けていく。
魔法少女の身体能力で進むこと約10分。パッシオに案内された地点までやって来ると、その魔獣はまさに倒されるその瞬間であった。
地に伏せる魔獣のそばに身長程の大きさの戦斧を担ぐ青い魔法少女と、大きな紫色の水晶を先端にあしらった杖を携える紫の魔法少女の二人がおり、戦斧を担いでいた魔法少女がその巨大な斧を振り降し、この場での戦いは無事に決着が付いたようだ。
「彼女達は、確か『激流の魔法少女 アズール』と『色彩の魔法少女 アメティア』だったかな?アメティアには一度会ってるけど、アズールの方は初めましてだね」
「うん。僕が集めた情報によると、アズールの方が見ての通り近接パワー型。アメティアの方が遠距離テクニック型。で、この前ヘロヘロになってた『陽炎の魔法少女 シャイニールビー』が中近距離のスピード型。よくこの三人で組んでいるみたいだ」
「成る程、バランスが良いわね」
メモを取り出して、いそいそと読み上げるパッシオが少し可笑しくて、笑いそうになってしまうがどうにか俺は堪えて、パッシオが頑張って集めたであろう情報を頭に入れる。
コイツも他人の事を言うが、自分の役割の事となると妥協をしないタイプだ。似た者同士だなぁと思いつつも隠れているマンションの屋上から、二人の魔法少女を覗いていると
「アリウムっ!!」
パッシオの焦った声と同時に、一瞬で張れる強度の限界の障壁を背中を覆う様に張る。
カキンッと障壁が何かを弾く音が聞こえたと思うと、視界に影が映り込む。
次に障壁で受け止めた力は先程のとは比べ物にならない位大きかった。
「へぇ!!こいつを防ぎきるのかよ!!」
「随分なご挨拶じゃない?『激流の魔法少女 アズール』ちゃん」
ガリガリとアリウムの正面に張られた障壁を削り取ろうとしているのは、先程まで眼下にいたはずの魔法少女の一人、アズールがその武器である戦斧を俺目掛けて振り下ろしている結果だった。
「そっちこそ随分コソコソとしたマネしてくれてるじゃあないか『純白の魔法少女 アリウムフルール』!!今度はウチらの獲物の横取りか?!」
「何の話か知らないけど、随分野蛮ね!!その口振りじゃあ私の目的だって分かっていないんじゃない?」
「んなこと、テメェをとっ捕まえて聞けば良いだけの話だろ!!」
その言葉と同時に、戦斧に魔力が集まり、巨大な水の塊が戦斧を覆う。それを再度振り上げると防いでいた障壁に叩きつける様に思い切りよく振り下ろして来た。