繋がりの力と花畑の主
「そう、それがメモリー。にっくきあの【ノーブル】が作った道具。原理は私もよく知らないけど、魔力を記録、保持できるアイテムよ。それを使って、逆にアイツらをあっと驚かせてやりましょう」
今までの雰囲気とは一転、大胆不敵な雰囲気を纏った彼女は悪そうに口元を歪めると、ふふんと鼻を鳴らす。
成る程、確かに【ノーブル】が作った物で【ノーブル】を追いつめられるなら、それほど愉快なことはなさそうだ。
自分たちが作った物で、自分たちが追いつめられる。思っても見ていない展開なのは間違いないだろう。
私もニッと笑い、その提案に乗る。
「良いわね。使い方は?」
「貴女のそばにいる、一番強い繋がりを持った子の魔力を『繋がりの力』の力を使ってメモリーに込めるわ。そのメモリーを『イキシア』に接続する」
「でも、『イキシア』が『繋がりの力』の象徴なんじゃないの?メモリーに込めるには、ちょっと無理があるんじゃ……」
提案に乗ったのだが、彼女の提案には少し無茶があるように思える。メモリーに魔力を込めるのに『繋がりの力』を使うと言うが、『イキシア』がその象徴のはず。
順序も手順もめちゃくちゃなように思えるんだけど……。
「……実は、メモリーもSlot Absorberもモデルになったのは『繋がりの力』なの。だから、その力の原型である『繋がりの力』なら、多少無理矢理でもとびっきりに強い繋がりくらいなら、メモリーに込められるはずよ」
「それって、もしかして――」
「さ、時間が無いわ。貴女の怪我も、メモリーに貴女の相棒の魔力を込める補助も、『イキシア』の使い方も、現実で私が何とかしてあげる。貴女は、胸を張って戦いに臨めばいい。取り戻したいんでしょ?お友達」
かなり意味深な事を言われて、慌てて質問するけれど、手をパンパンと叩いて時間が無いと
誤魔化されてしまう。
メモリーもSlot Absorberもその原型は『繋がりの力』というなら、私以外に『繋がりの力』を持っている人がいるということではないのか?
そう思い、何かを知っている様子の彼女を見つめるけど彼女は語るつもりは無いらしい。彼女にも、彼女なりの事情があるということだろうか。
それに、時間が無いことも事実なのだろう。もう、かなり長い時間この広大な花畑に滞在している。これ以上ここにいるのは、現実の私の身体が持たないし、委員長を一刻も早く取り戻したいのも、事実。
「……貴女はさっき、友達が少ないって言ったけど貴女から感じる繋がりは太くて強い物ばかりだわ。とっても皆を大事にして、貴女を大事にしている人たちに囲まれている。正直、安心したわ」
「……うん」
「その繋がりが貴女の強さよ。思い出しなさい、貴女がどうして今までの過酷な道を歩んで来たのかを。どうしてまた戦う道を選んだのかを。それが貴女の力の源泉で、それが貴女の繋がりになる。それが、貴女の強さになる」
私が、どうして今まで辛くても過酷な道を選んで来たのか、一度は挫折しても、そうしてまた戦う道を選んだのか。
そんなの、簡単だ。助けてと手を伸ばす人の手を取るためだ。世界中に、助けてほしくてもがいて苦しんでる人がいる。
その人の手を取って、助けられる人になりたくて、私は看護師になって、魔法少女になった。
それが私だ。そのためにはいかなる努力も惜しまない。昔よりも守りたいものも増えた、助けられるかも知れない人も増えている筈だ。
私は、昔からずっとそれをし続けていた。これからもそれをし続ける。
『誰かが伸ばす手を掴む』
ただそれだけ。たったそれだけだけど、今度こそは離さない。
「その調子。でも無茶はダメ。すぐ無茶するのは誰に似たのかしらねホント。それに妖精とのつながりは分かるけど、まさか完全に異世界の人とまで、強い繋がりがあるんだもの。驚いちゃったわ」
そう言って、彼女は私が今回の変身からつけていた真っ白なストールを手に取る。異世界からの繋がりと言われて、少し何のことだか分らなかったけど、あぁ成る程。あの子の事か。
というか、これあのマフラーが変化したものと言うことなのだろうか。あの子との繋がりと言えば、今ここにあるのはそれしかない。
……まぁた、なんか不可思議変化が増えたなぁ。
「お喋りはここまでね。本当はもっと話さなきゃいけない事、話したいことが沢山あるんだけど、そもそもここに来れたのが偶然の産物みたいなものだし、仕方ないわね」
「……また、会える?」
「ごめんなさい、保証出来ないわ。でも、覚えていて。私は貴女のそばでずっとずっと見守ってる。貴女ならきっと出来る。だから頑張って」
そう言われて、彼女にぎゅうっと抱きしめられる。私もぎゅうっと抱きしめ返す。
いつかまた会えるように、大事な大事な『繋がり』になるように。
力いっぱい抱きしめて、お互いパッと離す。さっきも言った通り、時間が無い。惜しんでもいられない。
やらなきゃいけない事があるから。今度こそ、そう誓って。
「『いってきます』」
「『いってらっしゃい』」
立ち上がって、自然とその言葉が浮かぶ。そうして振り返ったところで、私はこの広大な花畑から姿を消した。
その場所を、彼女はあふれ出そうになる気持ちを抑えながら見つめて、呟いた
「頑張って、真白。お母さんが、今まで出来なかった分沢山応援するわ」




