繋がりの力と花畑の主
お互い、姿勢を正して向き合うと少しだけ沈黙が訪れる。数秒の間の後、意を決したように息を吐いた彼女は私にまずこう告げた。
「まず、ここはいわば夢の世界、現実ではありません。そして、現実の貴女は瀕死の状態です。非常に危険な状態、少しでも早く傷を塞がないと命に係わる傷を負っています」
そう言われて、私は何を言っているんだと訝しむ。私はここで元気にしているじゃないか、よしんばここが現実では無かったとしても、死にかけている人間がこんな明瞭な夢を見るとは思えない。
眉根を顰めていると、ふと脳裏に戦いの光景が浮かび上がる。氷と障壁、炎が入り乱れた戦い、その最中で私は……。
「……っ!!」
「落ち着いて、ここで焦っても仕方が無いわ。これから今の状態を打開するための方法を貴女に伝えます。だからまずは、私の話を聞いて。貴女がここに長く留まれる保障はないし、何よりこのまま手をこまねいていては現実の貴女が助からなくなってしまう」
委員長との戦闘で、背後から伸びて来た氷の槍に貫かれたことを思い出した私は、どうすればここから出られるのかも分からないのに、立ち上がって駆け出そうとする。
それを諫められ、冷静になって改めて花畑の中に座り込む。彼女は現実の私をどうにかできる方法を知っているらしい。それを語ってもらう価値はある。
何せ、このまま現実に戻っても、自身で治療できるかは疑問。あの出血量、既に血が足りなくてまともに動けない可能性がある。
そうなれば詰み。私はあっけなくその人生を閉じることになるだろう。その状況を打開できるのであれば、まずは話を聞くべき。
「まず、貴女の力について教えます」
「……私の、力?」
力、力って何だろう。魔力の事だろうか?それなら、私の適性は理解しているつもりだ。私は障壁魔法と治癒魔法に高い適性があって、それ以外の属性魔法とされる魔法についてはてんで適性が無い。
例えば、火属性の魔法なら、指先にマッチの火を点けるのが精々だった。どんなに魔力を注いでも、それ以上大きくすることは出来なかった。
そんな話を今更されても、正直意味が無いのだけれど……。
「違うわ。魔力じゃなくて、もっと別の力。貴女が持つ魔力以外の特別な力、その内の一つよ」
「魔力以外の、特別な力?」
そんな力があるのだろうか。聞いたことが無い。もし、そんなものがあるのだとしたら、それは魔力以上にとんでもない発見では無いだろうか。
目を白黒とさせている私を見て、彼女は少しおかしそうに笑いながら続きを言うためにまた口を開く。
「そう、今は貴女しか持っていない力よ。私は『繋がりの力』。そう呼んでいたわ」
繋がりの力。そう言われてもやはりピンと来ない。繋がるって何と何を?そもそも繋げることが、現実への打開策になるとも思えなくて、私はむむむっ?と首を傾げて考え込む。
「まずは話を全部聞いてから考えてちょうだい。『繋がりの力』は自分と誰かを繋げる力、誰かと誰かを繋げる力。団結力、なんても言えるかも知れないわね」
「……団結力が、打開策?」
全然繋がらない。『繋がりの力』という割には、話が全く。団結したからと言って、私の、私達の状況が変わるとは思えない。
イマイチ全体像が見えてこないのだ。
「んー、まぁ、確かに実感は湧かないわよね。貴女、魔法少女になって魔法具として『繋がりの力』が分かりやすく形になっているのに、全然扱ってないみたいだし」
魔法具として、そう言われて私は思わず何言ってるんだこの人と思ってしまった。
私に魔法具は顕現していない。魔法少女が一人前になった証ともされる魔法具は、自身の願いや力の方向性が反映された、その魔法少女独自の武装だ。
現在、私は武器らしい武器どころか、アイテム一つ持っていない。それなのに、私が魔法具を持っていると彼女は言うのだから、おかしな話だ。
「……貴女、もしかして気付いて無かったの?魔法具、持ってるじゃない」
「えっ?いや、武器なんて一つも……」
「だから、持ってるじゃない。貴女の魔法具、それよ?」
そう言って、彼女は私の腰に下がっているポーチの中身。変身用デヴァイスのスマホを指さすのであった。




