それぞれの魔法少女
ズズンッと重い音を立てて、四肢を固定され、心臓を障壁に貫かれた魔獣が崩れ落ちる
周囲に損害は殆どない。多少路面が凹んだり、割れたりなど道路状況に影響が出た程度だろう
「ふぅ、何事も無く倒せたわね」
「うん。Cクラス程度の魔獣なら手こずることも無いからね、魔法少女もまだ現場に来てなかったし、被害が最小限で良かったよ」
今回の魔獣発生の現場には、まだ魔法少女達が姿を現していなかった
俺達が近場にたまたまいたと言うのもあるが、魔法少女達だっていつでもすぐさま飛んで来れる訳ではない
こう言った先に俺達が魔獣と接触した場合は、被害が出る前に容赦なく魔獣を狩らせていただいている
いくら魔法少女の稼ぎの種とは言え、減らせる被害は減らした方が良いだろう
流石に、助けられる距離にいるのに助けもせずに傍観と言うのはあまりにも無責任が過ぎる
「さて、下手に周辺の人に見られるのも良くないし早く撤退しよう。折角買って来た食材だって、路地裏に隠したままだしね」
「おっけー、じゃあ――」
「あ、アリウムお姉ちゃんだ」
「んえ?」
いざ、跳躍してその場を離れようかというその時、幼い女の子の声が聞こえて、思わず俺は足を止めてしまう
その視線の先には黒のゴシック衣装に身を包んだ、一際幼い魔法少女だった
「アリウムお姉ちゃんが倒してくれたの?ありがとうございます」
「いえいえ、貴女もすぐに来られて偉いわね、ノワール。魔獣は私が倒しちゃったけど、貴女が正規の魔法少女では一番乗りよ」
ぺこりと頭を下げてお礼を言うのは、この街で政府所属、野良の魔法少女全体を含めて恐らく最年少の魔法少女、『綺羅星の魔法少女 ノワールエトワール』だ
子供らしいもちもちと柔らかそうな頬っぺたと、眠そうな目に夜空に輝く星々のような黄金色の瞳をたたえた彼女とは、以前に何度か魔獣退治の現場で遭遇している
ぽわぽわした雰囲気と、ちょっと舌足らずな喋り方がなんとも可愛らしい子で思わず俺もその場から離れることを一旦やめ、彼女に視線を合わせながらよしよしと頭を撫でてあげてしまう
「むふぅ」
頭を撫でられ、自慢げに鼻を鳴らしながら目を細める様子も何とも可愛い。やはり子供は癒される。抱きしめて頬擦りでもしてしまおうかと考えていると
「先に行くなと言っただろうノワール!!お前はまだ一人で前線に出るのは――ってお前はアリウムフルール!!そこで何をしている!!」
騒がしく、薄萌黄色。分かり易く言うと黄色っぽい緑色を裏地と袴に彩った和装の魔法少女が現れた
一人で前線に飛び出してしまったらしいノワールを注意した後に、俺の存在に気が付きぷんすか怒った様子で腰に携えた刀を抜いてこちらにやって来た
「ちょっと、物騒なモノ出さないでよフェイツェイ。ノワールに当たったらどうするの?」
「私はそんなへマはしない!!それよりノワールから離れろ!!」
「ハイハイ、全く政府所属は短気な子が多いんだから」
白の羽織に裏地と袴は薄萌黄色。髪色は濃い緑色でショートポニーの髪型の彼女は『翠剣の魔法少女 フェイツェイ』
魔法少女の中では珍しい、和装に身を包んだ彼女はまだ幼いノワールの保護者役だ
前にノワールに出会った時も一緒に行動しており、魔法少女として指導をしながら、幼さ故の危険からノワールを守る師匠や姉に近い立ち位置なのだろう
「大体、野良がこんなところで何をしている」
「魔獣退治に決まってるでしょ?たまたま近くにいたから、私が先に討伐させてもらったのよ」
「勝手な事を!!野良は野良らしく引っ込んでいろ!!」
「そう、それが原因で必要のない被害が出るのを看過出来るのね?貴女は」
「――っ!!」
噛み付いて来るフェイツェイの発言をしっかり突いてやると、フェイツェイは苦い顔をしながら口を閉ざす
俺自身が政府所属ではないのは確かによろしいことではない。ただ、だからと言ってそれを理由に無力な民間人の被害を放っていていい訳がない
被害を減らせるなら、野良も政府所属も関係は無いだろう。その辺り、フェイツェイは潔癖と言うか少し綺麗過ぎるきらいがある
だからと言って汚れろ、と言っている訳ではないのだがもう少し柔軟に考えた方がフェイツェイ自身が楽だろう
「ま、魔獣は私が倒したから、私はここら辺でお暇するわ。じゃあねノワール、また会いましょう」
「ばいばい」
そう言って、俺は改めてその場から跳躍して立ち去ったのだった