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日輪の獅子

とは言え、外殻の下の肉にはそれほど切っ先は届いていない筈。ダメージ、というよりは防御力と体力を削った、というのが正しい認識なのかもしれない。

その証拠にドラゴンは一度伏せた身体をすぐに持ち上げこちらを睨み付けて唸り声をあげている。


「ホント、そのタフネスは尊敬できるレベルね。並の魔獣ならさっきので勝負がついてるくらいだし、流石はドラゴンってところなのかしら」


魔獣の中でも一際強力な、最強種とも名高いドラゴンの名は伊達では無いってことか。

今回は最終的に私が優位に立っている状況だけど、この状況だって様々な要因が重なって出来た、奇跡の一つみたいなものだ。


相性の問題、私が一人では無かったこと、戦いの中で技術の進歩が合った事、何より、この力を扱えている事。

このどれか一つでも欠けていたら、地面に倒れていたのはきっと私の方だった。


頭の中でそんなことを考えながら、もう一度肉薄するために地面を蹴り飛ばす。同時にジェット噴射のように足裏から巻き上がった爆炎が私の身体を一気に前に押し出す。


激しい戦闘で、瓦礫まみれになってしまっている辺りの街並みが早送りした映像のように視界の外に流れていく。50m程あったドラゴンとの距離を2歩で詰めると、前足を狙って剣を振るう。


「ッ!!」


狙った足を振り上げられ、狙いが少しずれる。当たりはしたが掠った程度、傷は浅い。クルボレレ程のスピードではないけど、これだけのスピードにその鈍重な身体で反応するとは思ってなかった。


でも、こちらの手数はさっきより一手増えている。振り切った右腕の遠心力で身体を反転させて、回った左足を踏切脚にして跳躍そのまま振り返るようにしてリオの宿っている左の剣を振りぬいて追撃。


「ガアァッ!?」


前足の一本を切断とはいかなかったけど、深く傷つけることに成功する。これで、いよいよコイツはその大きな身体を動かすのも難しくなったはず。


怯んだドラゴンの腹下に潜り、一気に勝負を決めようとしたけどやはり急所への対応は早い。すぐに圧し潰そうと身体を地面へと落して来て、たまらず私は慌ててまた足裏を爆発させて逃げ出す。


『がーうっ』


「今のは悪かったわよ。深追いのし過ぎ、悪手だったわ」


不用意な深追いを責めるようなリオの声が頭に響く。今のは確かに軽率だった。新しい強力な力に知らず知らずの内に浮かれていたのかも知れない。


焦りは禁物、しかし考えすぎず、目の前の事を一つずつ確実に。これが今回の戦いで私が得た最大の戦果だ。思考を切り替え集中しようと息を吐くと、相手も同じように息を吐いている、相手も決めに来ているのかもしれない。


身を震わせるような魔力の収束と輝きが、相対しているドラゴンの口元から漏れ出している。


さっきはアリウムの機転でどうにかやり過ごせたドラゴンブレス。今度はどうやら私が対処しなければならないらしい。

ドラゴンも死に物狂いなのか、最初に放った時よりもチャージ時間が早い。初期の段階でこのスピードでドラゴンブレスを撃たれていたらと思うと、身の毛もよだつ。


ホント、色々な要因が重なってこの状況まで持って来れたのだと思う。


「決めるわよ、リオ」


『ガオォォッ!!』


避ける訳にはいかない。防ぐ手段も無い。ならどうすれば良いか?私達に出来ることは一つ。

真正面から、あのドラゴンブレスをぶち破るっ!!


Memory(メモリー) Boost(ブースト)!!】


左手首に巻いてある、Slot Absorberのボタンを叩く。再び湧き上がる濃い朱色の魔力が私の身体と剣を取り巻き、炎となって噴き上がる。負けない、負ける訳にもいかないし、負けるつもりも無い。

何より、負ける気がしない。リオの力と私の力、何より私は今すぐアリウムを助けに行かなきゃいけないんだ!


「だから、さっさとそこをどきなさいっ、クソトカゲ!!!!」


ダンッと地面を抉る勢いで駆けだす。同時に巻き上がっていた炎も追随し、私の周囲に依然としてまとわりついている。

それに合わせるようにして、ドラゴンブレスが放たれる。


正直、恐怖を感じる。今から私はあの魔力の暴力の中に突っ込む。恐ろしくない訳が無い、でもそれでも……!!!!

恐怖を抑え込んで、両手の剣の切っ先を重ねるようにして前に向ける。


『ガオオオォォォォォォォォォッッッ!!!!』


「あああああぁっぁあっぁぁあっぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」


咆哮と雄叫びの二つが混ざって更に身体は加速する。もう止まれない止まらない。荒ぶる魔力を炎に変え、切っ先へと集める。朱色の炎を纏って突撃する私は、とうとうドラゴンブレスの中心に突入した。


「『太陽が如き百獣の威光(サンライズ・リオーネ)!!!!!!』」


ドラゴンブレスと朱色の炎を纏った二本の切っ先がぶつかり合い、一瞬の均衡の後、私の魔力がブレスを切り裂く。

切り裂いたその先、茫然としたように口を開けたままのドラゴンを私はそのまま貫いた。


「はぁっ、はぁっ、はあぁぁっ……」


ずざざざっ、と盛大な土煙をあげ、地面を削りながら止まった私は、肩で息をしながらゆっくりと振り返る。


体内から貫かれては流石のドラゴンもどうしようもなかったらしい。やがて絶命したことに気が付いたように体勢が崩れ、地面に完全に倒れる。

勝った。ドラゴンに。その事実だけが頭の中で反響するも、実感が湧かないまま、私も呆けた様子でドラゴンの死体を眺める。


その向こう側、アリウムが倒れている方向に炎で象られた薔薇が浮かび上がっていることになんだろうと思いながら、私はただ息を整えていた。


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