市街地討伐戦
痛む左腕を押さえながら立ち上がり、同じように緩慢な動作で立ち上がった委員長がこちらに身体を向ける。
まだ左腕の治療は終わってない。止血が終わっただけで腕は何もしなくてもズキズキするし、動かそうとしようものなら激痛でそれどころではなくなる。
障壁魔法もそう、というか魔法全般がそうだけれど【魔法】という事象なだけで、科学と同じように出来ないことは出来ないと決まっている。
例えば障壁魔法は耐久力を超えた攻撃は防ぎきれないし、治癒魔法は死者を甦らすことは出来ない。
特に、治癒の魔法に関してはどんなに手を尽くしても助かる事の無い患者は助ける治癒魔法の効果の範囲外だ。
ここに関してはこの世界の医学の方が優れているのかも知れない。最善を尽くせば、息を吹き返すかも知れない、という希望は時に患者に考えられない程の回復力を発揮させることがあるのだ。
「左腕は?」
「ごめん、もうしばらくかかる。前衛をお願い」
この左腕の怪我も、致命傷ではないけれど大きな怪我だ。治癒魔法を使っても治療には時間が掛かる。戦いながらともなれば、治療よりも防御を優先することになるので、更にその治療には時間が掛かるだろう。
「なんだよ、そのままかみ殺してくれたら面白かったのになぁ」
期待外れだとばかりに肩を落とすクライスの事はこの際無視だ。アイツは今は顔の近くを意味も無くぶんぶんと飛び回るウザイ小バエとでも思っておくことにする。
一々気が散ってしょうがない。
「もうこれ以上時間も掛けてられないし、掛けて良い相手でもなくなったわ。下手に躊躇していればこっちがやられる」
「良いんだね?」
作戦変更。四の五の言って躊躇っていた結果がこちらの負傷ともなれば、油断をすればこちらが怪我どころでは済まなくなる。多少の怪我は目を瞑るしかない。
委員長の体に傷をつけることになるけど、幸い治癒魔法の利点の一つは傷跡が残らないという事。
付いた傷は後から治せると腹を括るしかない。
「致命傷は避けて。多少の怪我は後で私が治療する」
「中々無茶を、言うねぇっ!!」
飛んで来た氷の槍を薙ぎ払い。逆に炎の槍をパッシオが打ち込む。炎弾よりずっと攻撃的なその魔法は、委員長を地面ごと吹き飛ばした。
当然、致命傷になるような攻撃は避けてというのは守ってくれていると信じてる。
さっきまでの前提だった出来るだけ無傷でという条件からは随分と譲歩しただろう。
……本当は無傷で救えるのが一番なのはよく分かってる。後で千草とケンカになるかもしれない。でも、ここで私がやられたら、ここで委員長を助け出せなかったら。
そのどちらかになったら、ケンカすることだって出来なくなる。
「やる事を、出来る事をやるよ。全力でっ!!」
治癒魔法を一旦止めて、障壁魔法に集中する。さっきよりももっと細かく、もっと多く。
関節を少しでも動かせなくなるような絶対的な拘束をイメージする。
その思考に合わせて、辺りに散らしている障壁たちが魔力でキラメキながら、委員長へと殺到していった。
それを少しでも排除するように、空中で体勢が崩れていても委員長は氷の魔法を乱射するけれど、もともと花びら程の大きさの障壁にあまり意味はない。
魔法が勢いよく近付けば、ふわりと風に巻かれて辺りに少し散るだけなのだから。
「これでっ!!」
これで捕え切った。
私もパッシオも確信していた。これで動ける動物なんて、それこそ関節の無い軟体動物くらいだ。関節を外そうにも、腕を引きちぎろうにも、それをするための体を動かす余裕が無いのだから。
「――えっ?」
そう、確かに捕らえていた。無数の障壁で動けなくなった委員長を、確かに空中でより強固に障壁で雁字搦めにしていた。それでも。
「ハハハハハハハハハハッハハハハハハハハハッハハハハ!!!!!!!!!!さいっこうだなぁ!!オイ!!」
「アリウム!!しっかりするんだ!!アリウムっ!!!!!!!」
どうして、私のお腹から氷の槍が生えているのだろうか。