市街地討伐戦
委員長との戦いは、今まで経験した事がないレベルの魔法戦へとなっていた。
全方位から襲い掛かる氷の弾丸。これを障壁で凌いではいけない。
脚を止めたが最後、氷の魔法で全身を氷の中に閉じ込められる。
さっきはそれで危うく閉じ込めかけられた。
「乗って!!」
「お願い!!」
少し身を屈めたパッシオの背に、しがみ付くようにして跨り、炎を纏わせた3つの尻尾で氷の弾丸を撃ち落として行く。
撃ち漏らしや破片を最小限の障壁で防ぎながら、駆け出したパッシオが包囲網から抜け出す。
続けざまに氷の槍が一本撃ち込まれるけど、障壁を斜めに張って受け流す。
お返しに鋭く尖らせた障壁をいくつか撃ち出すけど、氷の壁で塞がれる。
その壁で視界を遮られてる間に私はパッシオから降りて、再び二手に別れた。
別れたパッシオを空に跳ばすために、たわませた障壁を張って、トランポリンの要領で跳ばさせる。
同時にパンチの動作に合わせるようにして、1m四方の障壁を壁に撃ち込んでおく。これで空中のパッシオからは気が逸れるはず。
ガラガラと崩れる氷壁の中から、委員長が飛び出して来ると、その手には氷で作った短剣が二本。
肉薄して来てからの一振りをワザと柔らかくした障壁に食い込ませて一瞬動きを遅らせる。
その間に障壁を関節に重ねて展開し、動きを止めようとするけどすぐに障壁の内側から氷の塊を発生させて、障壁の展開を妨害される。
本当に魔法の構築スピードが速い……!!
拘束する為の障壁が完成する前に潰されるなんて初めてのことだ。
だけど、今回の狙いは障壁での拘束じゃない。
「ーーっ?!」
「そのまま大人しくしててくれるかな!!」
炎を身体に纏わせ、真上から飛びかかって来たパッシオが委員長を地面に組み伏せる。
委員長の四肢を押さえるようにして、パッシオは彼女の上に体重をかけ続ける。
この間に、私が更に各所に障壁を張れば……!!
「ぐっ?!」
「パッシオっ?!」
だけど、それをする前にパッシオが慌てて委員長の上から飛び退く。
何があったのかと思えば、委員長は自身の身体を中心に、剣山のように氷の針を作り出していた。
「大丈夫?!」
「平気!!ごめんよ、チャンスを逃した」
負傷の具合は幸い、大した事はないようだ。
腹部から少しだけ魔力の燐光がチラついているけれど、パッシオからすれば軽傷のレベルみたいだ。
確かにこのチャンスを逃したのは痛いけれど、チャンスはまた作ればいい。
「しかし、拘束となるとやっぱり難しいね。何も考えず倒せれば、もっと早く済むんだけど」
パッシオの言う通り、倒すだけならもうとっくに終わっていると思う。
かたや操られているだけの魔法少女1人に対して、こちらはそれなりに経験はある私と、戦力として本領を発揮し始めているパッシオの2人がかり。
戦力差もさる事ながら、氷属性の委員長と火属性のパッシオという属性のわかりやすい優劣もある。
氷の魔法は氷を操る魔法だ。科学の視点では同じ物でも、魔法的視点から見ると別物のようで、パッシオの炎に溶かされた氷は勢いを失ってはただの水となり、やがて消えていた。
それだけの優位な状況でありながら、こうして戦いが長引いているのは、委員長を拘束して捕まえようとしているこちらの目的が原因に他ならない。
可能な限り無傷で、こちらを襲って来る相手を捕まえるというのが、ここまで難しいものだとは思いもしていなかった。
だからといって、彼女を傷付けては本末転倒。迅速に確実に、委員長を無力化して、ドラゴンと対峙するルビーのもとへと駆けつけなければならない。
今、この間も後ろでは苛烈な戦闘の音が聞こえて来ている。
焦りは禁物、しかし迅速にそして確実に、可能な限り無傷での無力化。
言葉にすればするほど、それが如何に難しいかを実感する。