市街地討伐戦
何が起きた、というのが私達全員の意見だろう。
一般人でも感覚の鋭い人達が何かを察知できる程の魔力。それが、恐らくアリウムの障壁を抉り、轟音を立てながら宙に放たれていった。
「きゃあああぁぁぁぁぁぁっ?!」
「なんだ?!何があった?!」
「ママぁぁっ!!」
「怖いよぉ〜!!」
地面も大気も。辺り一帯のあらゆるものを震えさせる魔力の暴力に何が起こったかも分からない一般市民達がパニックに陥る。
「大丈夫!!大丈夫です!!私達の仲間が何とかしてくれています!!大丈夫です!!」
アメティアの言っている事は正しいだろう。先程の空も大地も揺るがすような攻撃。
あの凄まじいとしか言い表せない攻撃をアリウムの障壁が空中へと逸らしたのはこの目で見た事だ。
ただ、あんな攻撃を、魔力の塊を撃ち出す様な攻撃をする魔獣なんて、私は1つしか知らない。
「……アリウムが行って、正解だったとウチは思うぜ。あの攻撃は多分ドラゴンブレスだろ?あんなもん街中でぶっ放されて、もしアリウム以外の魔法少女が行ってたら間違いなくとんでもねぇことになってたからな」
「そう、だな。アリウム以外であの攻撃を逸らせる魔法少女なんて、それこそウィス姉さんくらいだろう」
チラチラと、アリウムとルビーが戦っている方向に視線を向けていると、見かねたのかアズールが声を掛けて来た。
やっぱり、ドラゴンが出た。という見解のようだ、そうでなければあんな攻撃、魔法少女で言うなら『固有魔法』の中でも攻撃に、特に殲滅に特化した魔法だけだろう。
あの2人はまだ固有魔法を会得していない。アリウムに至っては技量だけで言えばA相当だが、魔法具すら顕現していない。
その2人がドラゴンを相手どっている。本当なら私とアズールが最前線で戦い、ルビーが遊撃、アリウムが防御、妨害、回復のサポート、アメティアが全体指揮と多種多様な魔法での牽制、ノワールの急所への狙撃、クルボレレが戦闘に慣れているのなら、ルビーと共に遊撃や回避の補助をする事になるのだろう。
総力戦だ。これだけやって、ようやく魔法少女の被害を最小限にとどめて討伐が可能になるだろう。
それだけドラゴンとは強力な魔獣だ。それをたった2人で対応している。
色んな事が頭によぎる。最悪の想定すら浮かび、今すぐ駆け付けたい衝動に駆られる。
『また』間に合わないのでは無いかと、焦りが滲み出て来る。
「落ち着けよ。アイツらなら大丈夫だ、大丈夫なんだよ絶対」
「……」
はやる気持ちをアズールが押さえ付ける。まずはやる事をやれ、そういうこと何だとは思う。
ただ、それでも、どうしても、アリウムが心配でならない。
「信じろよ。姉なら、妹が全力を尽くしてるってことを信じろ。アイツらなら大丈夫だって信じてやらなきゃいけないんだ。姉だからって何でもやってやっちまったら、アイツらに良くないし、アイツらを信用してないって事になる。だから、信じろ」
それを分かっているのか、アズールも戦闘の音が聞こえて来る方向を睨みつけながら、そう口にした。
……よく見れば硬く握った握り拳からは血が滲んでいる。
あぁ、そうだ。アズールだって姉なのだ。
末の妹のルビーがドラゴンと戦っていると分かっていて、心配でない訳がない。
彼女だって心配なのだ。きっと、誰よりも早く駆け付けたいに違いない。
「だから、早く避難を終わらせるぞ。それだけで、ウチらはアイツらの加勢に早く行けるんだ」
その真っ先に駆け付けたい気持ちを押さえつけて、アズールは目の前の事を、魔法少女としての責務を優先したのだ。
こういうところが、1つ年下の中学3年でこの考え方をする事が出来て、それを実行出来る胆力と精神力こそが、アズールの最大の強みだろう。
指揮を執るのはアメティアだが、私達のリーダーはアズールだとしみじみと感じる。
どうしても兵士気質な私には、どうしても出来ない事だ。
時折、こういうところで自分の不甲斐なさを感じる。
「みんなー!!こっちっすよー!!ハイハイ!!おチビちゃん達はお姉さんがこの台車で運ぶっすからね!!」
「……飛ばし過ぎて落とさんだろうな?」
「ウチが監視しとくわ。大人のトラブルは任せたぜ」
場に似合わない明るい声が思考を一旦中断させると、クルボレレの引く台車に子供達が乗り込んでいた。
アレで大丈夫なのか、少し不安だが、まずはやる事をやらなくてはならない。
魔法少女としてやる事をやり、姉としてアリウム達を信じる。
大丈夫。アリウムとルビーなら、きっと。
そう信じて、私達はまた混乱を治めながら、避難誘導を再開した。




