市街地討伐戦
幾つもの火炎の軌跡と、花弁のような障壁のキラメキ。時折巨大な鞭のような影も見える中、私たちは逃げ遅れている人たちの救助と、誘導を行っていた。
「こちらです!!焦らずに進んでください!!」
アリウムを真似て、空中に足場の障壁を作って目立つようにして逃げ出して来た住民たちを先導するのはアメティアに変身した紫だ。
普段から指示を飛ばす役割を担っているだけあって、こういった人々の避難誘導には慣れている様子で、住民たちがパニックにならないように注意を配っている。
「魔法少女だ……、助かった……」
「でもどうして街中に魔獣が……」
「少し前にも空から魔獣が来たっていうじゃない?今回もそれなんじゃないかしら」
「魔法庁と警察は何をやっているんだ。避難誘導なんて、魔法少女がやることじゃないだろ」
それでも、住民たちの不安の声は消えない。
住宅街、自分たちの住んでいる中心地にいきなり魔獣が現れ、大暴れしているとなればこの不安もどうしようもないことだ。
その不安を少しでも払拭するために私達、残りの魔法少女たちはわざわざ変身した姿で避難の誘導を行っている。
「みんな、一緒に行こうね。お利口さんにしてれば大丈夫だから」
「ありがとうございます。ノワール・エトワールさん」
「ノワールで良いですよ~。みんなにもそう呼んでもらってますから」
その避難誘導をする魔法少女達でも、案外役割の分担はしっかり分かれている。
魔法少女の中でも幼い部類のノワールは近所の幼稚園や保育園に通う園児たちの誘導だ。
突然のことにパニックを起こしてしまいやすい子供には私たちの中では年の近い、大人に近い私達よりも子供に近いノワールが声を掛けた方が効果が高いようだ。
特に私達魔法少女はテレビにも時折映る本物のヒーローとして、子供たちには人気が高い。
おかげで園児たちは癇癪も起こさずに、利口に誘導に従ってくれている。
「体の不自由な人らの移動はあらかた終わったぜ。あとは逃げ遅れがいねーか確認してくる」
「ボクの方も終わりましたぁ!!アズールさんと一緒に逃げ遅れた方がいないか、しっかりチェックしてくるっす!!」
「分かった。手伝ってくれてありがとうな、クルボレレ。手が足りてなかったから助かった」
「いえいえ!!力があるのに使わないのはボクが納得出来ないだけっすから!!後でパパとママにめっちゃ怒られるだけなので!!」
アズール、それと騒ぎを聞きつけて文字通り跳んで駆け付けてくれたクルボレレの増援で、ご老人や介護を受けてらっしゃる方の救助と避難もあらかた終わったようだ。
特にクルボレレには頭が上がらない。彼女はあくまで野良。戦闘訓練も始めたばかりなのだが、臆せず駆け付けてくれたその精神力と行動力は、私も見習っていきたい。
この辺りもアメティアの発想だ。あの子の視野の広さと、的確に人員を配置する手腕には相変わらず舌を巻く。
そして私、魔法少女フェイツェイは、言わば用心棒に徹している。
所謂保険だ。避難誘導に忙しい他の魔法少女達の代わりに、新たな魔獣が出た場合の撃退、民間人のトラブルの仲裁。火事場泥棒を企てる不届き者の成敗が役割。
基本はハッキリ言って周囲を警戒しているだけだ。
無くてもいい余計な人員と思うかもしれないが、この保険の人員こそが有事にはとても大事な意味を持つ。
この非常時にどんな不測の事態にも迅速に対応できる余剰の人員がいることが、世の中にとっては本当に大切で、重要な役割を持っている。
度々、この余剰人員を無駄だと言い、コストカットという名目で切り捨てる輩がいるが、そんな奴は目先のことにしか目が行っていない大バカ者だ。
社会において、人を回し、養うという意味合いも込めて、この余裕をもってこそ一流の管理者だ。
これは、諸星に来てから学んだことでもある。
「何とかなりそうだな。思っている以上に人々が冷静に対処をしてくれている」
「私達魔法少女が集まっている、というのも大きいのかも知れません。なんにせよ向こうの二人もしっかり抑えていてくれてますし、今のところは順調ですが……」
「分かっている。気は抜かないさ。大丈夫だと安心したころが、一番危険だからな」
気の緩みこそ最大の敵だ。何がなくとも、細心の注意を払って、迅速に的確に行動する必要があるだろう。
そうすれば、見事に魔獣を一か所に留めている二人の下に早く駆け付けられるはずだ。
逸る心にブレーキをかけて、戦いの音が聞こえてくる場所へと視線を向ける。
何事も無ければ、それでいいんだがな。




