獣を追って
エストラガルが身体を張って作った決定的な隙にすかさずブレーダーメモリーを抱えたブラザーメモリーが飛び込んで行く。
指示通り、ベンデの後ろにブレーダーメモリーを降ろしたブラザーメモリーは迫って来る黒い霧に備えていつでも飛び立てるように待機。
「だああああぁぁっ!!」
剣を鞘から抜いて一閃。リアンシさんが視た場所である尾の先目掛けて剣を振るった。
ここから見るぶんにはただ空を振るっただけの剣。空振りにしか見えないけれど、それが確実にベンデと『獣の王』の繋がりを断ち切ったことを私達は瞬時に理解する。
その瞬間にエストラガルの腕に貫かれ、金切り声をあげていたベンデがガクリと糸が切れた操り人形のように力を失ってエストラガルに覆いかぶさるようにして意識を失ったからだ。
あとはトドメを刺すだけ。だけど、エストラガルごと斬るわけにもいかない。ブレーダーメモリーはエストラガルに覆いかぶさるベンデを引き剥がそうとするけれど。
「ダメだ兄弟、間に合わねぇ!!」
「くそっ!!」
「……っ!!」
そんなことをしている時間は残念ながら残されていなかった。『獣の王』との繋がりを断ち切ってもベンデに宿っている『汚染』の権能が消えたわけじゃない。
これをどうにかするにはベンデを殺すしかない。
「私ごと斬り捨ててください!!」
それが意味するのはエストラガルごとベンデを斬るということ。それをこの一瞬で判断させるのはあまりにも酷だ。
ブレーダーメモリーは当然、躊躇する。それを一瞬で決断して、長らく顔を合わせて来た忠臣の1人を切り捨てられるほど、ブレーダーメモリーはスタン君は冷酷になれるタイプじゃない。
「迷ってる暇はありません!!」
「くっ……!!」
「ダメだ、ここは退くぞ兄弟!!」
急かすエストラガルの躊躇うブレーダーメモリー。その間にも黒い霧は彼らを飲み込もうと迫って来る。時間的猶予はほぼ無く、これ以上は危険だと判断したブラザーメモリーがブレーダーメモリーの首根っこを掴んで飛び立とうとする。
エストラガルのことは見捨てるしかない。ブラザーメモリーの判断は正しい。それでも納得できない人はいる。
手を伸ばすブレーダーメモリーの手はエストラガルに届くことは無く。
「ルミナス、今!!」
「っしゃあ、その言葉待ってました!!」
その諦念を覆すのはノワールとルミナスメモリーの声だった。未来を視たノワールが、最も最適なタイミングで声をかける。
そしてそれを信じていたルミナスメモリーが即座にそれに対応する。
【進化!! 光の速さで駆けつけろぉっ!!】
「『導きの光臨』!!」
『思い出チェンジャー』から鳴り響く音とルミナスメモリーを包む光に何が起きているのかを理解する前に、彼女の姿がその場から消えて、そしてまた現れる。
その腕には黒い霧の中心で取り残されたはずのエストラガル。そしてそれに覆いかぶさっていたベンデの姿があったのだ。
「一緒に連れて来ちゃったの?!」
「その方が良いでしょ!!」
ベンデごと連れて帰って来る未来までは視えて無かったらしいノワールが声を上げるけど、ルミナスはお構いなし。そして対応も素早かった。
すぐにベンデとエストラガルを引き剥がすと、私の方にエストラガルを半ば放り投げるようにして渡し、ベンデに向けて『浄化の光』遠慮なく叩き込む。
既に『獣の王』からの力の供給を断たれたベンデはそれだけで身体を覆っていた黒い霧が無くなり、継ぎ接ぎのだらけの身体を地面に横たわらせていた。
引き剥がして、私に治療を任せたエストラガルに付着している『汚染』の黒い霧も同じ要領で浄化すると、エストラガルが受けた『汚染』の状態が詳細にわかるようになる。
パッと見た感じは『汚染』された部分が炭化しているような感じだ。触れるとボロボロと崩れて行く様子は、おおよそ生き物の身体が受けるダメージのそれでは無かった。




