獣を追って
「この黒い霧を吹っ飛ばせば良いんですよね?」
「簡単に言えばそう。でも、言うほど簡単なことでも無いわ」
ルミナスの『浄化の光』を使って、この黒い霧を突破する。言うのは簡単だけど実際はそうでもない。
物は試しに私は足元にあったこぶし大の瓦礫を空中に蹴り上げ、そのまま黒い霧の中心にいるベンデに向かって蹴り飛ばす。
黒い霧の中に飛び込んだ瓦礫の欠片は『汚染』の能力によって当然徐々に小さく崩れて行くものだとルミナス達が思っているだろうところにベンテからの魔法が飛んで来て、瓦礫の欠片は粉々に砕かれた。
その更に小さくなった欠片が黒い霧の中で塵になって消えて行くのを私達は見つめることしか出来なかった。
「この通り、5本尾のベンデは今や射程圏内に入った物体や魔法を撃ち落とす自動迎撃装置と化しています。ただ無策に突っ込めば返り討ちにあうでしょう」
「しかも、いくら『浄化の光』で一時的に安全圏を確保しても、霧状に広がっている以上はすぐに元通りになるはずよ。足止めをされている間にまた黒い霧に覆われたら、それだけで危険ね」
それを聞いてルミナス達は露骨にうげぇと顔を顰めてげんなりしていた。わかりやすくて大変よろしい。
見ての通り、この黒い霧は一筋縄ではいかない超厄介な能力。
誰よりもこれに対する特効能力を持っているだろうルミナスが来たからハイ解決、というわけにはいかないのが本当に頭の痛いところだ。
「魔法は私が防ぎます」
「撃ち落とすことも出来るしね」
ただし、人が増えればやれることが増える。一時的にでも黒い霧を吹き飛ばすことがベンデに接敵するチャンスがあるのは間違いない。
高い防御能力を持つシルトメモリー、狙撃であれば右に出る者はいないノワール。それにアメティアもいる。ベンテが放ってくる魔法に対してはこの三人がいれば十分だろう。
「ピリアは私と黒い霧を可能な限り止めるわ。出来るわね?」
「ハイ。全力を尽くします」
ついでにメイトメモリーですと変身後の名前を伝えてきたピリア、もといメイトメモリーにニコッと笑いかけるとそっぽを向かれてしまった。
まだまだ素直じゃないわね。無事仲間として迎え入れられたことに安心したわ。そこだけが心配だったから。
メイトメモリーは私と同じ障壁魔法を器用に使う戦闘スタイルを持つ。私が花弁のように展開し続けて、必要に応じて形を変化させる戦い方だけど、彼女は障壁をスライム、あるいは水飴のような形状で使う。
私みたいな広範囲の防御性能は無いけど、代わりにより質量の伴った攻撃と防御が出来る。広い範囲なら私、狭い範囲にならメイトメモリーが有利、というわけだ。
私達2人で一時的に吹き飛ばした『汚染』の黒い霧から突撃する組を守る。防波堤のようなことをすると考えれば大体正解ね。
「ってことは俺らが突撃組か」
「移動と離脱は任せたよブラザー」
「任せろ。確実に仕留めろよ兄弟」
必然的に出来た活路からベンデに飛び込むのはブラザーメモリーとブレーダーメモリーの男子2人組だ。
手の甲をぶつけ合いながら気合いを入れている。2人とも近接戦闘がメインだしね。確実に仕留めるならそういう役割分担になる。
「スタン君。『繋がりを断つ力』はどう?」
「大丈夫です。兄からの意志は受け継ぎました」
「……そっか。じゃあ任せるよ」
「ハイ」
ここで更に重要になって来るのがスタン君、改めてブレーダーメモリーがこの戦いでの最初の作戦目標であった『繋がりを断つ力』を奪取したかだ。
まだこっちには情報は上がって来ていなかったけど、直接聞いてみると答えはYES。剣の柄頭を触りながら答えている様子には色々と含みがあると言うか、何かがあったことは察せる。
積もる話は後で、ね。ホント色々あり過ぎよ今回の戦いは。
「さ、やるわよ。準備は良い?」
作戦は決まった。さっさと終わらせましょう。




