獣を追って
【雛森です。『権能』についてですが、グレースアさんから魔法を弱体化する能力については報告があります。オーバー】
最低限の連絡をするための通信機から他の面々から上がって来た情報を管理統率し、必要なメンバーに情報を共有する役割をしてくれている雛森さんからの連絡では一応、似たような能力をした『権能』の存在を伝えられるけど、どうにもそれとは違う気配。
魔法の弱体化も相当に厄介な能力だけど、ベンデの能力は弱体化とかいうレベルじゃない。
魔法そのものの破壊に近い。術式そのものを根本から崩されている。そんな感じだ。
「アリウムです。ありがとうございます」
情報を受け取った事だけを伝え、通信を一度切る。携帯性を重視したこの通信機はあまり長時間持たないから、電源が入っている時しか通信が出来ないようになっている。
まぁ、常時付きっぱなしの通信機なんてそうそう無いし、それが携帯用ともなればなおさらなんだけどね。
「まずはあの『権能』がなんなのか確かめる必要がありますね。リアンシからは何かありますか?」
「わかることと言えば、常に力を注がれているってことかな。最初よりも多く注がれてる。姿が変わったのはそれが原因じゃないかな」
非戦闘員のリアンシさんは『繋がりを視る力』でベンデを状態の変化について注視してもらっている。
変わったことと言えば、ベンデに注ぎ込まれている力が私達が彼女と戦い始めた時より更にその量が増していることくらい。
元々過剰に注がれた力を更に多い力を注がれているのなら、身体が崩れて言っていることにも説明がつくわね。
多過ぎる力にベンデの身体の方が耐えきれていないのだ。ただでさえ継ぎ接ぎの身体を驚異的な回復能力を付与されて誤魔化していたみたいだけど、更にそれすらも上回った力を注がれたらそうなっていくでしょうから。
「どう見ます?」
「露骨な時間稼ぎね」
このやり方を見て、アメティアに問われるけど何をしたいのかは明白過ぎる。露骨な間での時間稼ぎだ。
この能力を見て足を止めざるを得ないし、そして対処するにしても時間がかかるのは明白。
何せ私の障壁魔法もだけど、アメティアの詠唱魔法ですらベンデに届く前に黒く崩れてしまうからだ。
こんな能力だ。殆ど生身のエストラガルなんて近づかせることすら出来ない。
最初は果敢に飛び込もうとしてたけど、私達の制止と触れる寸前に自分で危険を察知したみたいでそれ以来彼もむやみに接敵することはしていないしね。
たぶん、生身で行ったらそのまま魔法と同じ末路を辿ることになるでしょうね。そんなことになったら目も当てられないわ。
「万事休す、ですか」
「このまま放置しておけばそのうち自壊するんだろうけどねぇ」
「その間に霧の範囲は広がり続けます。しかもその自壊しきるまでの時間がいったい何時になるかもわかりません」
アメティアの言う通り、その黒い霧の効果範囲はこうして話しているごとに少しずつ広がっているようにも見えるし、それは実際に広がっているでしょうね。
今はじわじわと広がっているそれも、どこかで急速に広がる可能性がある。閾値を超えると言うのはそういうことだしね。
今は遅くても、どこかのラインを超えた瞬間に爆発的に広がり、周囲一帯を丸飲みする危険性は排除し切れない。
つまり、今ここで対処するのが最善なのだけど、その方法に欠いている以上はここで頭を捻りながら、監視を続けるしかなかった。
下手に目を離したり、ここに1人残して対応が遅れたらそれこそ致命的。
『獣の王』の狙いはそこにあると深読みすればなおの事。ショルシエ、あるいは『獣の王』という存在がそう言う嫌がらせをするのが超絶得意だというのは私達の共通認識だ。
「幸いなのは、彼女が動かないことだね。アレが自分で動きだしたらどうしようもなかったよ」
スフィア公国領主リアンシさんが溢した言葉には同意。身体が崩れていっているせいで、ベンデはあの場所から身じろぎすらしていないものね。
歩く無差別性別兵器なんてごめんだわ。この様子だとショルシエにすらダメージが行きそうな能力だし、あっちも動かれるのは嫌でしょうね。
「敢えて能力名を勝手につけるなら、『汚染』。だと思うんだけど、どう?」
「言い得て妙ですね。見てください。黒い霧が地面や瓦礫にも付着していますが、それらが時間を掛けて崩れています。あそこにあった柱がいい例です」
いつまでも『権能』だなんて大それた言い方をしておくのも癪で、それっぽい名前を勝手につけることにする。
勝手につけた『汚染』という名前は我ながら中々センスがあると思う。それを補強するようにこのメンバーの中でお城の構造について誰よりも詳しいだろうエストラガルが黒い霧が付着した柱が時間を掛けて崩れていることを指摘していた。




