獣を追って
私とアメティア、そしてリアンシさんが対峙していたショルシエがS級魔獣『人滅獣忌 白面金毛の九尾』と思われる存在に飲み込まれた後、その場から逃げて行ったその九本尾の巨大な獣を私達はそれを追うことが出来ていなかった。
「ここに来てこんなに厄介な存在になるなんてね」
「私の破壊属性でも崩せないとは、流石に予想外です」
更に正気に戻ったという帝王レクスの懐刀。『砕裁』のエストラガルも味方に加えてなお、突破を困難にさせている存在が目の前にいる5本尾の分身体。
名前はベンデ。私達とは結構早い段階で接触して来て、何度も戦った相手だ。
アメティアに至っては彼女を撃退した経験もある。5本尾とは言え、これだけの戦力がいれば十分に戦える。むしろ戦力的には有利とまで言える相手なのだけれど、残念ながら、私達の予想は覆っている状況だった。
「ああああぁぁ……」
その理由は、目の前にいるベンデの変容ぶりにあった。周囲に振り撒く黒い霧のようなものの得体の知れなさもそうなのだけれど、特筆すべきは本人の姿の変化だ。
この最終決戦が始まり、彼女との戦闘が始まった時から彼女の姿は私達の知っている姿では無かった。
継ぎ接ぎの肉体に許容能力を超えて注ぎ込まれた力は本人から思考能力と自我を奪い、呻きながら力を振り撒くだけの怪物へと彼女の姿形を変容させていた。
全てはショルシエのした事だろう。恐らく、負け続けの成果を出せない挙句、絶対的に有利な状況だった私とパッシオにすら敗走した罰のようなものなのだろう。
特に、『獣の力』を注ぎ込まれ暴走状態にあったパッシオに一方的に蹂躙された挙句、尾を3本も食いちぎられ。更には保有していたビーストメモリーまで奪われ、パッシオに取り込まれてしまっている。
結果としてパッシオの尾は8本にまで増えた。2本にまで減ったベンデは怒りに呑まれていた私を止める術がなく、正気を取り戻したパッシオによってギリギリ見逃してもらった。
そんな散々な状態で戻ったベンデがショルシエによる折檻を受ける可能性があることは想像に難しくは無いわよね。
まるで見せしめのようにわざと痛々しい姿をしているのは、他の分身体への見せしめと考えれば説明もしやすい。
しくじれば、次は無いぞ。そういう言葉の無いメッセージが一番恐ろしいからね。
しかし、彼女の姿そんな継ぎ接ぎの姿から更に変化し、まるで炭化して身体の端から崩れていっているかのような。
あるいは肉が腐り落ちて黒ずんで行っているようにも見える。
とにかく言えることはその身体がどんどんと崩れて行き、黒くくすんで行っていることだった。
おおよそ、命ある生命の姿ではない。どちらかと言えば命を終えた亡骸に近いような、そんな状態なのが今のベンデの状態だった。
「あの霧が厄介ですね」
「魔法、とは違いますね。自然現象に近い雰囲気を感じます」
「情報として挙がって来ている『権能』、ってやつかしらね」
どうにも、ショルシエとその分身体が魔法とは違う何らかの特殊な能力をそれぞれ保有していることは番長を通じて情報として共有されている。
どれもこれも強力なうえに特殊で、私達魔法少女に対するカウンター能力のような物が多いらしい。
その情報が確かなら、合点は行く。何せベンデが周囲に振り撒いているその黒い霧がして来ることは特に私に対する特効能力とも言える能力だったからだ。
「アリウムさんの障壁魔法がまるで通用しないのは困りましたね」
「女王陛下の手にかかれば障壁魔法も万能の魔法。あれほど突破口を切り拓くのに向いた魔法もありませんからな」
わざとらしく持ち上げるエストラガルに少しばかり抗議の視線を送ってから、その『権能』と思われる黒い霧の具体的な能力について思案する。
何故私の障壁魔法が効かないと言っているのかと言えば、簡単な話。
あの霧に触れた瞬間、私の障壁魔法が黒ずみ、崩れて行ってしまうからだ。まるで砂浜に立てた砂山が波にさらわれて崩れてしまうように、触れたところはごっそりと崩れてしまう。
こんな能力を持つ存在を放置して先に進むわけにもいかず、私達はベンデを前にして足を止めるしかなかったというわけだ。
もし放置して、ショルシエや『獣の王』の本体と戦闘中に後ろから襲い掛かられたらひとたまりもない。
そのくらい、この黒い霧の能力は強力で高い脅威を持っていると判断せざるを得ないのだ。




