思春期少女の悩みと出会い
やがて決着がつくと、また一礼をして二人の男子高校生は競技スペースから足早に立ち去る。
次は私と千草の模擬戦だ。準備のために私たちはそれぞれ道具を手に取り、身に着けてから競技スペースの枠内に入っていく。
「よろしく頼むぞ、朱莉」
「はい、全力でですよね」
言われるまでもない。元々格上なのは百も承知だし、なんならお互いの手の内というのはバレバレだ。
全力で行かないと後でなんて言われるかわからない。
「朱莉-!!千草―!!がんばれよー!!」
「お姉ちゃんがんばってー!!」
観客席からは遠慮なしに碧と墨亜ちゃんの声援が飛んできて、私も千草も面の中で苦笑いするけど、今は集中集中。ただ碧、アンタはもうちょっと自重しなさい。千草と接点なさそうなアンタが千草の事フレンドリーに呼んでたら、なんだあいつってなるのよここだと。
声援を送ってくれるのは良いんだけど、剣道の試合中は静かにしててよね。紫と、真白さん似のあの子が必死に二人の口をふさいで周囲にごめんなさいってジェスチャーをしてるのもちょっと面白いけど。
「はじめっ!!」
ツッコミもほどほどに、審判をかって出てくれた人から号令がかかると、私は意識を一瞬で切り替える。
千草の一挙一動に視線と意識を向ける。
竹刀の切っ先をお互い当てながら、間合いとタイミングをひたすら計り続ける。
同じ剣道でも、私と千草は戦い方のスタイルが違う。
私は言うなら常に動く剣道を得意にしている。常に動いて、攻めっ気溢れた戦い方は魔法少女の時の戦い方にも反映されている。
千草はその逆、静の剣道。その場から比較的動かず、あまり自分から攻めには来ない。逆に攻めて来た相手を打ち返してカウンターをすることを主体にしているのが主な千草の戦い方。
こっちも、魔法少女としての戦い方に割と反映されている。千草はよく、突っ込んできた魔獣を一刀両断している辺りがその側面だと思う。
このカウンター主体が私にとって鬼門。千草の誘いに乗りきらず、いかに私が攻め立てられるかが大事なんだけど、どうしても誘いに乗せられてしまったり、気が付いたら誘われていたりする。
そのあたりの駆け引きが上手いのが千草だ。頭に血を上らせれば冷静さを欠くのが千草の欠点なんだけど、私の実力だとそこまで追い詰めることが出来ていないのが現状ってところ。
ほら、また旗が二本上がった。
「お疲れ」
「お疲れ様です」
模擬戦が終わって、また座っていた場所まで戻ると千草と声を掛け合う。
今回も思いっきり負けた。何なら普段の魔法少女の訓練で行う模擬戦よりも早く終わった始末。
あまりいい傾向じゃないな、とは私も感じてはいるんだけど、上手くそこから抜け出す手段が見いだせない。だから上手くいってないんだけどさ。
「今日はどうした?いつもの調子じゃなかったが。お前ならもっと攻め込んでくる。それがお前の持ち味だろう?」
「すみません。誘いに乗らないようにって意識し過ぎたら、空回りしちゃった感じで……」
千草にも、いつもの調子が出ていないことを指摘されてしまった。自分でも気づくくらいだから、普段から打ち合いの訓練をしてくれている千草からしたらもっとわかりやすいのかも。
思わずため息を吐くと、それを見た千草は何か考えるそぶり見せた後、こう口を開いた。
「昼をウチのところで食べないか?碧や紫も来ているようだし、墨亜も喜ぶ。こっちも少し話したいことがあるしな」
「良いけど。結構騒がしくなるんじゃない?」
「アリーナから少し離れてれば問題ないだろう」
昼食の提案自体は構わないけど、碧たちまで呼ぶなら騒がしくなるのは必至。それでも大丈夫だというのなら、私としては問題ない。
その提案に了解を示した私はこの練習のあとの昼食でどうなるのか、脳裏で想像しながら、次の模擬戦に備えるのであった。
朗読会お疲れ様でした
いつもの数倍の人数が来て笑ってました。お耳汚しも酷いところでしたが、集まっていただいた方に感謝します