主人公
「『ビーストチェンジャー』はビーストメモリーに封じた獣性を解放するためのアイテムだ。簡単に言えば、ビーストメモリーを使った状態を意図的に作り出す装置だね」
「そんな危険なモノを……!!」
「だからひとつしか作らなかった。『獣の力』を自分の意思でコントロール出来るような強い心を持つ妖精にしか、これは絶対に使いこなせないからだ」
カレジ君の言う通り、とんでもなく危険な代物だ。ただビーストメモリーを使うよりは安全装置としての役割は大きいのだけどね。
そのまま使うと体内に吸収されてしまうビーストメモリーを体外のスロットに差し込むことで第三者にも脱着が可能な設計になっている。
一応、何かがあっても誰かが解除しやすい仕組みにはなっているわけだ。焼け石に水のような仕様ではあるけどね。
「私は、パッシオ君にならこれを使いこなせると信じて、今日ここに持って来た」
「本気で、言っているんですか?」
「本気さ。冗談で私がここに来ると思うかい?」
ぶっつけ本番でこんな危険なモノを使えと言って来るのは正直異常だろうね。だけど、試している時間は残念ながら無い。
今、ズワルド帝国で始まった戦いは刻一刻とその変化し、状況は複雑に、そして困難になっていくだろう。
戦力なんていくらあっても良い。状況がほんの少しでも良くなるならあらゆる手段を使うべきだ。
それが愛の力で乗り越えて見せろなんて言うふざけたものであっても、ね。
「……」
ビーストチェンジャーとビーストメモリーを見て悩むパッシオ君。悩むのは当然だ。もしかしたら上手くいくかも知れないし、いかないかも知れない。
失敗すれば、致命的な結末を生み出す。そんな博打みたいなものに飛びついて良いのか。誰だって躊躇う。
何より、彼は思っているハズだ。『獣の力』をコントロールして得た力で真白君の隣に立つ資格はあるのか、と。
私からすれば、そんなものは杞憂なんだがね。
「何を迷っている。パッシオ」
「カレジ……」
「迷う理由がどこにある。『獣の力』は制御不能な恐ろしい力じゃない。お前だったら、お前の姫様を想う気持ちがあれば、どうにかなると東堂さんが言ってくれているんだ」
迷うパッシオ君の背中を押したのは、予想に反して普段は冷静沈着で博打や不確実性の高い事象を嫌うカレジ君だった。
彼はむしろ反対する側だと思っていただけに、これは嬉しい誤算だった。それだけカレジ君も2人の関係性を憂いているということなんだろう。
「姫様の為ならどんなことでもやって来ただろう。なにより、姫様がお前を待ってる。お前が姫様を助けなくて、誰が姫様を助けるんだ」
「……!!」
「姫様のことは任せる。……行け、パッシオ!! 」
弾かれるようにビーストメモリーとビーストチェンジャーを手に取って、陣を飛び出すパッシオ君。
その後ろ姿を見届けながら、私たちと一緒にドラゴンが来ていることを大声で伝えておく。
ドラゴンの背に乗れば、ズワルド帝国もあっという間に到着出来る。あとはパッシオ君次第だ。
「すまないね。1つしか用意出来なくて」
「いえ、俺に渡されても扱いきれない代物でしょう」
「そうでもないと思っているがね。美弥子さんを守れるなら、君も大概じゃないかな」
「っ」
ビーストチェンジャーを一つしか用意出来なかったことを詫びる。試作品の域を出ないというのとやはり短期間では一つを用意するのが限界だった。
本来なら二つ用意したかったのだ。カレジ君もまた、密やかに愛に厚い男だと言うのを私は知っているからね。
それを指摘するとからかわれたと思ったのだろう。少しむすっとした表情をした後にそっぽを向かれてしまった。
パッシオ君と違って、カレジ君は隠すのが得意だからね。私は案外お似合いだと思っているんだけども。




