主人公
きょとんとしている当の本人は何のことだかよく理解出来ていないらしい。隣に座るカレジ君は私が何を言いたいのか分かったのか苦笑いだ。
「そんなバカげた理論が本当に成功すると?」
「少なくと、パッシオ君は『獣の力』を受けた時にいくらか抵抗して見せたらしい。君はそれが出来たかい?」
「……それは確かにそうですが」
ほとんどの妖精は『獣の力』の影響を受けたその瞬間に暴走していた。それに対して、パッシオ君は抵抗を見せた。
その差は何か。
あるとするならそばにいた真白君を自分から引き離すために抵抗しようとしていたに違いない。
「君はあの時、何とかして抵抗しようと試みた、そうだね?」
「そうですが……」
「碧君からのヒントだ。抗うよりも乗りこなした方が楽なこともあるようだよ」
「……!!」
碧君の魔法は非常に『獣の力』に似た魔法だと言うのは近しい者ならよく知っている。本人が嫌っているから見る機会はほぼ無いけど、そんな彼女からの助言はパッシオ君にとって有意義なモノになるだろう。
荒波に逆らうのではなく、それを乗りこなす。彼女らしい考え方だ。
『獣の力』によって増幅された攻撃性も元を辿れば自分が持っている攻撃性とも言える。真っ先にパッシオ君が真白君を狙ったことを考えると彼の場合は執着心のような物が真白君への攻撃性へと転じた可能性もある。
それに逆らうのではなく、乗りこなすという考えは目から鱗だろう。
そして、それからイマジネーションを受けたのはパッシオ君だけではない。
持って来た鞄の中からふたつのアイテムを取りだし、テーブルに置く。
ひとつめの見た目はそうだな、チョーカーと言う首に付ける装飾品かな。あまりメジャーな服飾品ではない。むしろマイナー、あるいはマニアックなモノで割とイロモノ寄りのデザインになってしまった。
なにぶん、身体の形が変えられる妖精が付け続けられる部位が首くらいしか思いつかなくてね。首輪は流石にこう、アレだろう?
「これらは?」
「『ビーストチェンジャー』。そして、空のビーストメモリーだ」
「ビーストメモリー?!」
「解析の中で生まれた副産物だったんだがね。こんなところで使い道が出来るとは思わなかったよ」
メモリーとビーストメモリーは似て非なる物だ。魂の保管庫であるメモリーに対して、ビーストメモリーはいわば獣性の捕獲機、ってところかな。
『獣の力』によって刺激される本能にもどうやら幾つかの種類があることが分かっている。ビーストメモリーとは、それを抽出し閉じ込めておくための檻。
例えば金銭欲を閉じ込めておいたビーストメモリーを使用すると、主に商売敵や自分の利益を奪おうとしている者に対しての攻撃性が上昇する。
これはメモリスターズのリベルタ君の父親に使われた種類の獣性だ。
「これに君の獣性を込める。それによって平時では『獣の力』の影響を受けにくくなるはずだ」
「それなら……!!」
「同時に君が持っている強みを封じることにもなる。最も強い感情を抑制するのと一緒だからね。これを使って獣性を抑えるということは、魔法の威力を下げることにも繋がる」
魔法の威力は気持ちの強さ。これは妖精も同様。強い感情から引き出される魔力と魔法は高い威力を持っている。
魔法少女の魔法が高威力高効率なのはこれが由来する。人間は想像力が他種族に比べて強いからね。
他種族に比べて突出した魔力量を持つ妖精でも、この理屈は当然適用される。魔力でのゴリ押しでも十分強いが、パッシオ君がその中でもひと際強力な魔法を放てるのはそれを知っているからに他ならない。
ビーストメモリーはそれを奪ってしまうわけだから、平時の魔法の威力が下がる可能性があるのは大きなデメリットだろう。
「それを解決するのがこの『ビーストチェンジャー』だ」
「制御アイテム、ってことですか?」
「いや、むしろその逆だ」
チャーカー型のアイテム、『ビーストチェンジャー』は残念ながら『獣の力』の制御装置ではない。
『獣の力』をコントロールする方法をこの短期間では確立することは出来なかった。




