主人公
「無茶苦茶言わないでください。東堂さん、あなたの言っていることは理論が破綻しています」
「だろうね。少なくとも無理難題を突き付けている自覚はあるよ」
『獣の力』により本能の暴走は耐え難いモノだろう。獣と近い妖精なら、それは他の種族より数段上だと言っても良い。
それのリスクを真白君に押し付けながら戦えと言っている。パッシオ君からすれば私の主張とはそういうものだ。
それが嫌でこうして来たのに、私はそれをしろというのだから破綻していると言われても仕方のないことだろう。
だが、私は何もこの無茶苦茶な主張を何の策も無しに話し来たわけでは無い。
「だが、それを乗り越えなければ先は無い。真白君には君が絶対に必要であり、私達の勝利には真白君が絶対に必要だ。つまり、君がここに引き籠っていることは私達全体にとって必要なピースが欠けていることにも等しい」
真白君とパッシオ君。これが片方でも欠けるべきではない。私の個人的な主張ではある。あるが、事情を知る者は全員、首を縦に振るだろうという自信もある。
それくらい、固く強い結束だ。それがもたらす無限にも近い可能性が様々な困難を打破して来た事を何より現場にいる魔法少女達はよく知っている。
真白君は結束の芯だ。その芯に最も近いパッシオ君がここにいることを私は非常に危険なことだと考える。
「……過大評価のし過ぎです。僕がいなくても、真白はやるべきことを完遂できるだけの力を持っています」
「本当にそう思うかね?」
真白君はアレでいて案外脆い性格をしている。それはパッシオ君もよく分かっているだろう。
確かに、真白君にはやるべきことを成し遂げるだけの強いパワーがある。ただし、巨大な使命とそれを原動力に動く本人に意志に反して、精神と言う支柱が細すぎる。
ただでさえ、一度は壊れたモノだ。いくら補強と修正をしたとしても脆さは変わらない。
心はガラスで出来ているというのは言い得て妙というヤツなのだ。
ガラスが砕けたら完全に元に戻ることはないように、心も一度砕けてしまうと完全には元に戻らない。
真白君の精神は、心は幼少期からの様々な出来事によって既にボロボロだ。それを何とかして立て直し、補強し、再び戦列に光り輝く美しいガラスの彫像へと変えたのは他ならぬパッシオ君だ。
無論、他にサポートをして来た人物は沢山いる。お付きのメイドの美弥子さん、我が子として迎え入れた諸星一家。友であり仲間である魔法少女。
他にもたくさんの人々が真白君を支えている。だから真白君は人々の中心で燦然と輝き、人を魅了し、惹き付け、その理想に追従していき支えのひとつとなっていく。
「君が隣にいてこそ、真白君は最高のパフォーマンスが出来る。私は本気でそう思っている」
その根元を支える君が真白君の隣にいないでどうするんだ。3年前、真白君は君が絶対に助けに来てくれると信じて、人質として【ノーブル】へ乗り込んで来たのだ。
君を信じて、君だったら来てくれると信じて。今だってそうじゃないのか。
「今度は真白君が君を助けるために躍起になっている。それは分かる。だが、君は本当に何もしないつもりか?」
構図としては3年前の逆だ。真白君が人質となって助けに来てくれるのを信じて待ったあの時と、パッシオ君や妖精族の命運が事実上の人質となっている以上真白君が必死になって助けようとしている。
それで、君は納得するのか。
ただ待ってるだけで救済を待つような、そんな情けない男では無いハズだ。君はそんなちんけな男じゃない。
「だったら、どうしろっていうんですか」
「立ち向かうしか無いだろう」
「そんな簡単な話じゃ――」
「困難に立ち向かわない弱虫野郎が、惚れた女を守れるわけが無いだろう!!」
簡単な話じゃない。だから焚き付けに来たんだ。これは誰かが恨まれてでもやらなければならない。
恨まれるなら私が適任だ。私だったら何とでもなる。一度、悪事に身を染めた私が少しくらい恨まれたからと言って何が変わると言うのか。
だから一番突かれたくないことを嫌でも突いて行く。
「そんなことで彼女の隣に立てるのか、パッシオーネ・ノブル・グラナーデ!!」
騎士だとか、主従だとか、体裁だとか、そんなものを全て取り払って、ただただ彼女の隣に立つ男として、情けない真似をしてくれるなよ。パッシオ君。




