主人公
「僕らがどういう気持ちでここにいるかを貴方が理解していないとは思いたくありません」
「理解はしているつもりだ。理解を示した上でこの話を切り出している」
妖精族は『獣の王』の配下に連なる一族。そのせいで『獣の力』の影響を強く受けやすく、ショルシエが暴走させようと思えば指先一つの感覚で暴走させられてしまうのだろう。
そんな危険分子を真白君の側には置いていられない。それは『獣の王』を打倒するためには邪魔になる。
それがパッシオ君たちの基本原則であり、ここに身を隠している理由だ。
何より、真白君に危害を加えようとしてしまった自分を許せないのだろう。彼にとって命にも代えがたい存在を自分で壊そうとした。
その恐怖は耐え難い苦痛であり、自分はいない方が良いという発想に繋がっている。
誰かを強く愛するが故に自分を傷付けてでも、愛する人を傷付けないという選択は如何にも美談で、物語の一幕のように思う。
だが、それは見方を変えるとまるで違う印象にもなるのだ。
「いつまで怯えているつもりだね。今の君はまるで狐に怯える小動物のようだよ」
「こうするしかないでしょう!!」
机を叩き、立ち上がって息を荒げるパッシオ君。確かに、こうするのが最も手っ取り早い方法だ。
自分達妖精族が姿を消せば、真白君に危害を加える可能性は無くなる。少なくとも、妖精族が魔法少女側の足を引っ張るなんてことはない。
だが、それで良いのか? それが本当に最適解なのかい?
それは逃げているだけじゃないのかい?
「こうするしか、こうでもしないと妖精族はまた暴走させられる!! そうなったらもう取り返しがつかないかも知れない!! そうなる前にこうするしか方法はないでしょう!!」
「それはごもっともだよ。だが、それは対処療法でしかない。根本的な解決は真白君に丸投げだ。君は、逃げたんだ。『獣の王』によって自分が獣になるのが怖くて、君は尻尾を巻いて逃げ出した。違うか?」
「っ!!」
ギリッと噛み締める音が聞こえる。パッシオ君にもその自覚が無い訳じゃない。愛する人を傷付けたくない一心で離れるという決断は、視点を変えれば自分では解決しないという逃げの判断だ。
それで良いのか? それで愛していると本当に言えるのか。
本当にその人のことを想うなら、立ち向かわなければならないのではないか。
「お言葉ですが東堂さん。それは別の解決策があれば、の話です。僕らには解決策が見いだせなかった。だからせめて、距離を置くことで解決しようとしたのです」
冷静に話を聞いていたカレジ君がすかさず仲裁に入って来る。相変わらず大局をよくみている。
参謀という肩書は伊達ではないということだ。その言説も何も間違っていない。こちらも事件発生直後、どうすれば良いのかもわからない絶望感の中でパッシオ君の選択が間違っていると言いたいわけではない。
「もちろん、分かっている。それが妖精族全体としては正解だと私も思っているよ。でも私はパッシオ君に聞いているんだ」
「パッシオに?」
「あぁ、私はパッシオ君個人の話を聞きに来たんだよ。君はこのままで良いと思っているのかい?」
今回、私が聞きに来たのはあくまでパッシオ君個人の気持ちだ。彼がここで腐っているというのなら、私もここに留まる理由はない。今回の話は無かったことにさせてもらおう。
「そんなわけ、ないじゃないですか……!!」
食いしばった唇から絞り出すようにして漏れ出た声は屈辱とも見えるし、必死の抵抗にも見える。
そうでもしないと、ここから飛び出して行ってしまう。そんな気持ちを抑え込み、真白君の邪魔をしないように。
なにより、同じことが起きてしまうことを彼が非常に恐れていると感じる。それはそうだ。誰だって、彼と同じ或いは似た気持ちになるだろう。
自分の意思を無視して、愛する人に襲い掛かってしまう可能性があるなんてわかったら、私だってそうする。
それでも彼を焚き付ける必要がある。真白君には絶対にパッシオ君が必要だ。これは私の願望のようなものでもあると同時に、誰もが思っていることでもあるだろう。
あの2人が離れ離れになるなんてそんなことがあってたまるか、と。
「だったら、逃げたらダメじゃないか」
だから、私は彼を焚き付ける。動かなきゃいけないのは彼の方だからね。




