主人公
キャンプ地の中に入るのは思ったよりも簡単だった。私の名前とピット博士の名前を出してすぐに中に入るように促されたからだ。
キャンプ地にいる門番役からは相当訝しがられたがね。まぁ、彼らからすればわざわざ身を隠しているのにそこに踏み込んで来る無粋な輩なのだから仕方がない。
それでも敵意を向けられることが無いのはこのキャンプ地が上手く統率されていることを意味している。
「団長はこちらにいます」
「ありがとう」
案内してくれているのはレジスタンスの構成員か。てきぱきとしたやり取りでキャンプ地の一番奥にある陣まで案内してくれると、入口の幕を上げて中へと入れてくれた。
中は会議用のテーブルだろう。木と椅子を切り出して作られた即席のそれの上には様々なモノが並んでいて、このキャンプ地でもパッシオ君のリーダーシップが遺憾なく発揮されていることが伺える。
「やぁ、久しぶりだね」
「お久しぶりです。まさかこちらに来るとは思っていませんでした」
その奥の1人掛けの机で事務作業をしていたのが私達が用事のある張本人、パッシオ君だ。相変わらず仕事人だ。私も人のことは言えないがね。
席を立ち、手を差し出す彼の手を取り、固い握手を交わす。そこに当然のことながら敵意や疑心は無い。
まるで旧友との再会を喜ぶ好青年だ。おおよそ、最愛の人のもとを断腸の思いで離れた者とは思えないくらい明るく振舞っている。
それもまぁ、彼の我慢強さからくる虚勢のようなものだろうというのは察することが出来る。
何せ、明るくこそ振舞っているがその目にはかつてのような覇気がイマイチ感じられなかったからだ。
「……無理は身体に毒だよ」
「はははは、流石に東堂さんにはお見通しですか」
真白君の下を離れるという決断は彼に大きなストレスを与えているのは明白だった。単に真白君との愛を育めないからという安直なモノでは無く、彼にとって真白君をサポートするというのが何よりの生きがいだろうからね。
パッシオ君にとって主君であり愛する人でもある真白君の隣に自分が立てない。立つ資格がない。
あの妖精族暴走事件が心の傷は相当に深く、そう簡単に癒えるモノでは無い。パッシオ君に至っては真白君に危害を加える一歩手前だったというのだから、その精神的ショックは凄まじいモノだろう。
彼の愛情は半ば執着にも似ているからね。愛とは得てしてそういうものだ。絶妙な相互バランスよって育まれた愛を自らの手で汚しかけたと考えれば、少しは分かりやすいだろうか。
「ピット博士もようこそ」
「ご歓待に感謝するよ、パッシオーネ殿」
ピット博士とも握手を交わし、近くにある四人掛けのテーブルへと案内される。彼もバカではない。我々がわざわざ足を運んだということは何か話があるということを理解しているようだ。
「すみません、遅れました」
「ジャストタイミングさ。ちょうど話を始めようかと言うところだった」
席に着いたところでバタバタと急ぎ足で現れたレジスタンス参謀のカレジ君。
これで役者は揃った。そろそろ話を始めようか。
「まずは単刀直入に言おう。パッシオ君。君はここで腐るつもりかね?」
「……どういうことですか?」
「言ったままの意味さ。こんなところで真白君に何かが起きても知らぬ存ぜぬを貫くつもりなのかと聞いているんだ」
出来るだけ歯に衣着せぬ物言いで言葉を放った。煽る、と言っても良いだろう。パッシオ君の逆鱗に触れるように言ったつもりだったが、上手くいったようだ。
バンッと強くテーブルを叩いたパッシオ君の感情を揺さぶれたのは確定だからね。あとは上手く乗せられるかどうか、かな。
用意した手段はリスクのある方法だ。彼がこれに理解を示してくれればいいけれど、どうだろうね。そればかりは予想が難しい。




