主人公
「ふぅ」
移動と連日の徹夜から来た溜め息を吐いて、目一杯肺に空気を取り込んで頭を起こす。
「お疲れ様。ここからは東堂さん一人で行くか?」
「あぁ、腹を割って話したいんだ。悪いが少し待っていてほしい」
「ワシは付いて行こう。ミルディース王国の関係者同士、顔が通る」
「ではお願いしますピット博士」
舞君のお父さんでメカニックの黄瀬 めぐる氏と昴君を保護し『思い出チェンジャー』を発明した発明家で元ミルディース王国お抱えの研究者であるピット博士とやって来たのは妖精界を3分割する巨大な山脈である『コウテン山脈』の麓に広がる丘陵地だ。
寒冷な気候で少々肌寒さも感じるくらいだ。人間界の気候で言えばアルプスが近いだろう。
そんなところまでわざわざやって来た理由はひとつ。
「大きなキャンプじゃな。この規模をこの短い期間で作り上げるとは、流石はレジスタンスのリーダーであり、元ミルディース王国の近衛騎士団の副団長といったところかの」
「パッシオ君のリーダーシップは本物ですからね。それに参謀役のカレジ君も中々です。2人にかかれば、集めた妖精をまとめ上げることなどそう難しくないでしょう」
目の前にある妖精族のキャンプ地へと訪れるためだ。先のショルシエによる妖精族暴走事件により、妖精族が『獣の王』の配下に連なる一族であることが世界的に知られてしまった。
それからと言うもの、妖精族とそれ以外の種族はギクシャクとした関係が続いている。今はまだ真白君を中心とした王族の一声などもあって大きなトラブルは引き起こされていないが、その危うさは薄氷を踏むかのようなギリギリのバランスで成り立っていると言って過言ではない。
その中でミルディース王国にいる妖精族の殆どをこの地に集め、あらゆる種族から距離を置こうと諭して回ったのが私達もよく知っている人物。パッシオ君だ。
彼はあの一件以来、私達とは一切の連絡を絶っていた。それは関係の断絶というよりは、私達の邪魔をしないようにしようという配慮だろう。
妖精族が真白君の周りにいる限り、『獣の王』はそれを利用した奇襲作戦や同士討ちを計画するハズだ。
その危険性を排除するためには妖精族そのものを戦力としてカウントすることを避けるしかない。
ただし、我々からすれば妖精族は貴重な戦力。共に戦って来た大事な仲間だ。今更、暴走したから仲間外れ、というわけにはいかない。
そうすれば、種族間の溝はさらに深めてしまうかも知れない。
身の危険を晒してでも妖精族を仲間とカウントするか、大切な仲間を敵として味方ではないと見做すか。
対『獣の王』戦線の最前に立つ真白君にとって非常に難しい判断が待っているハズだったが、彼はそれを事前に回避するためにレジスタンス内はおろか、王都から、はたまた周囲の街々にいる妖精族すら引き連れて私達から大きく距離をとったのだ。
自分達が真白君の邪魔になるのなら、自ら優先して真白君から離れるという判断を彼は迷わずとった。
凄まじい決断力と実行力。そして人をまとめ上げるリーダーシップだと感嘆する。普通の人にはこんなことを短時間に実行することは不可能だ。
彼の発するカリスマが妖精族を一致団結させ、真白君達の戦いを邪魔しないためにこのような人気のない場所でひっそりと身を隠すように身を寄せ合っている。
「なによりたった1人を思うが故の愛の姿に、皆が心を打たれたのでしょう」
「相思相愛の姫と騎士が、巨悪との戦いのために袂を分かつ決断をする。まるで物語のような出来事ですからな。心とは、時にこうした奇跡を生む」
「違いありません」
パッシオ君も真白君も本人達が頑張って隠しているつもりでも、その相思相愛ぶりは隠せていない。
誰もが誰も、2人がいずれ婚姻を結び、ミルディース王国を素晴らしい国へと発展させていくことに疑いが無かった。
それほどまでに周囲からも認められていた2人が、『獣の王』という巨悪によって離れざるを得ない。
その決断をせざるを得ない状況になり、民衆がパッシオ君から共に離れる決断を乞われたからこそ起きた奇跡のような状況は間違いなく、真白君達を助けていた。
彼の決断が彼女が抱えざるを得なくなった巨大なリスクを排除したのだから。これを愛と呼ばずに何と呼ぶのか。
「行きましょう」
だが、私はそれに対して敢えて否を唱えよう。こんなことは間違っていると彼に突き付けるために私はここに来た。




