魔法少女はじめました
走り込むこと一時間。集合していた公園で彼女達と別れ、自宅に戻ると起きていたパッシオが玄関先まで出迎えてくれる。その様子だけ見ているとまるで主人が帰って来たのを喜ぶペットだ。実際は妖精でも、その仕草はうむ、中々に可愛らしい
「朝のトレーニングお疲れ様。お風呂はやっておいたから、入って来ると良いよ」
「さんきゅ。朝飯は上がったら作るから待っててくれ」
「期待してるよ」
朝風呂済ませ、朝飯も済ませると、今度は筋トレだ。魔法少女に筋力は関係なさそうだが、いざという時に頼りになるのはやはり己の肉体だろう
男の頃の筋力が、魔法少女に変身した時に反映されるのかは微妙なところだが、何にせよ持久力を高めるという観点で行けば恐らく意味がある。それを休みながら10時頃まで続け、10時から13時まで休憩
13時から今度は魔力のトレーニング
魔法少女になってからの俺の生活ルーティーンはこんな感じのストイックな内容で回転していた
「ホント、幾ら目的が大仰だとは言え根を詰めすぎだと僕は思うんだよね」
そんな練習の様子を見ながら、相棒は何度目かのため息を吐いた
「しっかしまぁ、『純白の魔法少女、アリウムフルール』ねぇ。私はまだあってないけど、人の獲物を横取りして、そんなに楽しいかね?」
真白さんと別れた私達三人は公園のベンチに腰掛けた碧のため息交じりの一言と共に、同じようにベンチに座ってその件についてお互いの印象や、何が目的なのかを意見交換していた
「目的がイマイチ分かりませんね。普通、野良の魔法少女は政府に属さない明確な理由や原因があるはずです。私も、一度だけ会いましたが彼女は礼儀正しくて、あの時は新しく政府所属になった魔法少女だと勘違いしましたから」
紫も、普段のおどおどした雰囲気はなりを潜め、仕事スイッチが入った状態で冷静にアリウムフルールについて分析していた
この子は私達の頭脳役。初見の敵の分析や、攻撃の傾向などを見極めて私達に教えてくれながら、魔法を正確に放っていく。その腕前と頭脳は私達の監督者である雛森さんも一目置くほどだ
「んー、やっぱ私は会った事がねぇからなぁ。話を聞くだけじゃ、魔法少女が仕留め損なった魔獣を我が物顔で横取りしていくいけ好かない奴ってしか感じないなぁ」
朱莉はどうなんだよ?と碧から私に話を振られる
碧は私と揃って前線を維持したり、魔獣を直接攻撃するアタッカーだ。特に碧はパワー型で魔力の出力と水魔法の重さで敵を正面から潰していくタイプ。私達の中では年長者の方で、その場の士気を上げる隊長的な側面がある。魔法少女歴も長い
「私が、この地域の魔法少女の中で一番アリウムに会ってるのは事実ね。悔しいことに強いわ。魔法具も持ってないのに、Aクラスに近い実力はあると思う」
「おいおい、魔法具無しでAクラスは無いだろ?魔法具がねぇってことは『固有魔法』も使えねぇんだぞ?基本中の基本だろ、魔法具を持ってない魔法少女がCランク。魔法具が持てるようになってBクラス。『固有魔法』を使えるようになってAクラス。それ以上のバケモノがSクラスだ」
魔法具無しがAとか聞いたこともねぇよ、と碧は呆れたように言う
確かに、魔法具無しでAクラス相当なんて過大評価かも知れない。でも、本来なら同格であるはずのCクラスの魔獣を一方的に倒して見せているアリウムフルールは、少なくとも私と同じBクラスに該当する力を保有している筈
しかも、属性魔法を使わずに、だ。恐らく、適性が無いのだろうと思うけど、だからと言って障壁魔法で魔獣を倒すなんて、誰も考え付かないだろう