思春期少女の悩みと出会い
あの少女がアリウムかもしれないという衝撃を受け止め切れないまま、私は頭の中を整理しようとうんうん唸りながら無意識にアリーナの中を移動していた。
「――……い。……かりっ。朱莉ってば!!」
「わっ?!」
アリーナの観客席に割り振られた私達の学校のスペースで椅子に座って考え込んでいた私の耳元で、突然大声で名前を叫ばれ、驚いてひっくり返りそうになる。
何だと思って振り返ると、腰に手を当てている同学年の部員の子に呼ばれているらしかった。
「はいこれ、グループ分けと時間割。ボーッとし過ぎてると先輩と先生に怒られるよ?朱莉、ただでさえ一部の先輩たちにやっかまれてるんだから」
その子に合同練習の組み分けと、練習場使用の時間割を記載したプリントを渡される。
一部の人達にやっかまれているっていうのはこの子の言う通りなので、変ないちゃもんつけられる前に移動して、練習に参加しないと。
因みに、やっかみの理由は練習にロクに参加してないクセに私の方が強いから。
はた目から見れば練習もせずに、レギュラーに入り込める生意気な一年に見えるみたい。
実際は、その先輩達より、ずっとハードなトレーニングを積んでいるのでただの学生に負ける気は早々無いんだけど。
「ご、ごめん。ちょっと考え事してて」
「ふーん?まぁ、練習に遅刻しなければ良いけど。あと、あそこ、幼馴染の先輩達来てるから、挨拶して来なよ」
その子が視線を向けた先を目で追うと、悪戯成功みたいな顔で笑っている碧と、ごめんねと手を合わせて、多分碧を止められなかった紫の姿。
「にゃっ!!」
「り、リオ?!」
そして、最近私の家の新たな家族になった猫のリオが尻尾をピンっと立ててご機嫌な様子でそこにいた。
思わず、頭を抱える。公共施設にペットは基本的に連れ込むのはNGだ。アレルギー持ちの人がいる可能性があるし、トイレのお世話とか、悪戯とか、トラブル防止を考えれば当然だ。ただ大きな大会という訳でもないので、アリーナの管理事務所の人達は基本的に話しかけられなければ、受付のカウンターの奥の方に引っ込んでしまっている。
おかげで、リオは何の障害も無く、中に入り込めたみたいだ。
「ちょっと碧。連れて来ないでよ」
「わりーわりー。連れてけってせがまれてよ。世話はウチらでするから、気にしなくて良いぜ」
「ごめんね朱莉ちゃん。私がしっかり見ておくから……」
碧を咎めるとケラケラ笑いながら、自分が主犯である事を自白する。やっぱりか。
リオはリオで自己主張激しく私の膝の上でにゃーにゃー鳴いてるし、紫はペコペコ頭を下げながら、止められなかったことを謝る。
「はぁ~~。注意されたら連れて帰ってよ?」
「おっけ~」
「にゃ~」
連れて来てしまったことを咎めてもどうせ碧の事だから糠に釘だ。猫のリオには何を言ったって仕方ないし、巻き込まれた紫には同情しかない。
精々、先生や大人の人達に見つかって怒られないように注意すれば良いと思う。
そう結論付けて、私はそろそろ始まる練習に参加するため、重くなってしまった腰を持ち上げることになるのだった。
……そういえば、ペット持ち込みはあの子も同じか。
「おはよう朱莉。今日はよろしく頼む」
一緒に練習するグループが集まっている場所に道具一式を抱えながら移動すると、見知った顔がいた。
「おはようございます千草先輩。こちらこそ、今日はよろしくお願いします」
「そんな他人行儀に、とはいかないか」
「普段は兎も角、今はお互いただの学生ですから。公私混同は無しってことで」
ぺこりと丁寧に頭を下げると、普段の口調と態度とは違うことに戸惑う千草が映る。
とは言え、普段がフレンドリーすぎるだけで、本来、私達の関係は先輩後輩の上下関係があるべきだ。
1、2年の年の差ならともかく、千草と私は3つも離れている。
魔法庁で魔法少女として話をするなら対等だけど、剣道部員として、学生としてこの形が正しいと思う。