魔法少女はじめました
公園脇を走る俺の方に手を振るのは、村上 碧。黒のくるくると毛先があちこちに跳ねている強いクセっ毛と、小麦色に焼けた肌が特徴的な15歳の女の子。快活そうな印象そのまま、にししと笑う表情は男子にも負けない、やんちゃ坊主感を余すことなく表現している。水泳部に所属しているらしく、夏のシーズンはまさに部活シーズンだろう
その碧に口調で注意しているのは、金本 朱莉。勝気な目元と、焦げ茶色の髪をツインテールにしたアニメや漫画で見るような美少女で、見た目通り口調も強い
勘違いされそうな性格だが、その分イエスとノーがハッキリしていて主張することはしっかりと主張し、自分に非がある場合はちゃんと認める良い子だ。歳は13歳で剣道部に所属しているらしく、たまに帰り道に見かける時は、竹刀袋を肩に背負っていた
そんな押しの強い二人に挟まれてわたわたしているのが、本田 紫。14歳で二人に挟まれて手足をバタバタさせている状態の通り、自己主張が苦手で内気なタイプだ
顔立ちも他の二人と違って垂れ目がち。背中の中程まである黒髪を今はポニーテールに纏めているが普段は下ろしているらしい
部活は文芸部。唯一の文化部所属で、二人に巻き込まれた形でこの場に来ているのだが、案外運動神経は悪くなく、普通に付いて来るあたり、見た目や性格以上のタフネスを持っていそうだ。因みに、一番発育が良い
「皆、おはよう。今日もよろしく」
「おっはー」
「おはようございます」
「お、おはようございます」
俺の挨拶に、三者三様で挨拶を返したところで、早速俺達は4人になって朝のランニングを始めるのだった
彼女達に出会ったのは半月前。俺がフィジカルトレーニングとして、朝のランニングを始めた頃だった
当時はまだランニングコースを模索中で、どうするのが良いかと思いながら、とりあえず近くの河川敷まで走って、そこからは河川敷沿いかなと考えながら走っていた時
「すみません。ちょっと良いですか?」
と朱莉ちゃんに声を掛けられたのが、きっかけだった
最初はこんな一回りも年下の子が俺に何の用だろうと訝しんだものだが、蓋を開けて見れば同い年くらいの恐らく男の子(顔が綺麗すぎて自信が無かったと言われた)が早朝一人で走ってるのは危ないから、一緒に走らないか?と提案するつもりだったらしい
まぁ、その実態は自分の倍も生きている26のおじさんだった訳だが。あの時の朱莉ちゃんの反応は今思い出しても笑えてしまう。人はテンパると本当に目を回すらしい
「む、今真白さんが私を笑った気がします」
「え?いやいやそんなことは無いよ?」
やはり女性は勘が鋭い。まだ中学生とは言え、女性という事だろう。下手なことは考えるもんじゃないな、なんて思いながら、夏の涼しい朝の河川敷を四人でみっちり走り込む
最初はキツイだけだったが、余裕が出てきた今は景色や風を楽しむ余裕も出て来た
こんな気持ちが良いなら、昔から日課にしておけば良かったと思う程だ
「ていうか、朱莉、お前謹慎くらったんだろ?出歩いていて良いわけ?」
「謹慎?何かしたのか?」
謹慎とはあまり良い言葉ではないな。もし学校から謹慎処分が出ているなら、外を出歩いているだけで評価を下げられてしまう。今すぐにでも帰した方が良いだろうか
「ひ、人聞きの悪いこと言わないでよ?!ちょっと練習に参加するのを止められただけよ!!」
「あはは。朱莉ちゃん、ちょっと練習を頑張り過ぎて、この前病院に運ばれたんです。だから一週間、部活に来ない様に言われたみたいで」
「なんだ、そういう事か。いや、でも病み上がりなら尚更家に帰った方が良いだろ?」
謹慎と言うよりは、ドクターストップの方らしい。恐らく熱中症か何かだろう。剣道をする体育館はこの時期はとにかく蒸す。直射日光をガンガン浴びる水泳よりも、ずっと熱中症のリスクは高いだろう
だとするならば、彼女は病み上がりだ。それなら謹慎よりももっと重要だ。この場にいる大人として、彼女を送り帰した方が良いだろうか
「ランニングくらいなら大丈夫です。逆に、何もしてないと身体が鈍って体調を崩しそうです」
そう考えていると、朱莉ちゃんはそういうので、俺はとりあえずその場は分かったと返事をして、収める。もし、体調がすぐれ無さそうな時は、直ぐに休憩して、帰そうと思いながら俺達は河川敷を時間まで走り続けた
というか、よくよく考えたら彼女たちは今夏休みだ。謹慎も何も無かった、不覚だ