決意と覚悟
移動なんて特に語ることも無い。自分の脚で人間界に戻って、航空機で街に戻って、そこからは割と地味な移動の繰り返しだ。
セスナ機に乗ったり、陸路だったりな。語ることがあるとすれば栃木に空港が無いことをさっき知ったことくらいか。
完全に俺の思い込みだったのだが、普通に47都道府県に空港はあるものだと思っていた。ましてや栃木は区分上首都圏に該当する。
それでまさか空港が無いとは、まぁ正直思っていなかった。俺はてっきり飛行機での移動になるとばかり思っていたから予想外というか、少しばかり驚いた。
今の人間界では移動と言えば航空機だからな。陸路海路は大抵ダメだ。特に海路は相変わらず。
陸路は最近、少しずつ改善されているらしいがな。『魔法少女協会』が設立されて3年。各地の魔法少女の育成レベルが高いレベルに向かっていることが理由のひとつだろう。
魔法少女が必要無い世界を目指す真白は渋い顔をしていたがな。本人からすれば、自分の望む世の中とは逆方向に進んでいるようなものだ。
皮肉なことに本人が活躍すればするほど、真白に憧れて魔法少女を志望する少女達が増えているというのは頭の痛いところだろうな。
「シャドウさん、間もなく到着します」
今は陸路。荒れた元県道を悪路走行に向いたSUV車も乗り込んで進んでいる。
俺は運転免許なんて持ってないから、当然運転手がいる。『魔法少女協会』、白河支部。その中でも特別でここにしか設置されていない『封印監視室』と呼ばれる部署に所属しているベテランの魔法少女と共に俺は那須高原へ向かっていた。
「分かった。突然の対応をさせて悪いな」
「いえいえ、有名人の『竜撃のシャドウ』と対面どころか、同行させていただけるなんて一生自慢出来ますよ」
「俺の実力なんて大したことないんだがな。報道は盛られ過ぎてる」
「ご謙遜を。世界で初めての男性の魔法使いとしての活躍は既に並のA級魔法少女より上ではありませんか」
彼女は『縛鎖の魔法少女 カテーナ』。その名の通り、鎖の魔法。つまり、捕縛や拘束などを専門にするというかなり特異性の高い魔法少女だ。
障壁魔法しか使えないアリウムフルールも相当に変な魔法少女なのだが、カテーナも相当に変な魔法少女と言って良いだろう。
本人曰く、自分の魔法に攻撃性能は殆ど皆無で、拘束した敵をぶん投げたり叩きつけたり、直接殴りかかったりするくらいしか攻撃方法が無いらしい。
だが、その特異性故に今の仕事に就いていると言える。
「そんな方が日陰者部署に急用があるなんて言われてびっくりしましたよ」
「アンタが日陰者なわけが無いだろ。どっちかと言えばエリート中のエリート。魔法少女の中でも精鋭しか預けられない仕事をしている人間が口にする言葉じゃないと思うが?」
「いやー、『封印監視室』なんて殆どそこにいるだけでですからねぇ」
『封印監視室』。文字通り、封印を監視するための専門の部署。仕事もその名前の通り、封印を監視することが仕事だ。
ただし、ただの窓際族が集まっている左遷部署では断じてない。
彼女達が監視している封印とは、S級魔獣『人滅獣忌 白面金毛の九尾』の封印のことだ。
時にして10数年前、最初の魔法少女と呼ばれる10人+1人の偉大な魔法少女。その中でも中心的だったとされる『封絶の魔法少女 アストロメリア』が命を賭けて封印した。
その封印に異常が無いかを監視し続けるのが、彼女達『封印監視室』だ。
「正直、退屈な仕事ですよ。華々しく活躍する魔法少女達が羨ましい限りです」
「退屈じゃないと色々問題だがな」
「そこなんですよねぇ。私達の仕事なんて無いに越したことはないですから」
封印を監視するだけの仕事と言うが、それが重要なんだ。もし、封印に異常があったらそれはS級魔獣『人滅獣忌 白面金毛の九尾』の復活を意味する。
S級魔獣の中でも最も人間を殺したとされる存在の復活は人類最大の天敵の復活を意味する。
彼女達の仕事は地味だが、人類の存続に直結する仕事だ。だからこそ、エリート中のエリート。ファースト、セカンド。世代や国籍を問わずに優秀な魔法少女が集められた部署が『封印監視室』だ。




