決意と覚悟
真白達がドラゴン達の背に乗り、帝国へと向かったのを見届けた。あっちはまさに死闘がこれから始まるだろう。
下手をすれば、いや冷静に考えれば考えるほど、あの中で何人かが死ぬ可能性のほうが高い。
それくらいの戦いになるはずだ。こちらが幾重にも用意をしているのと同じように、ショルシエが何の用意をしていないハズがない。
分身体の強化、ショルシエ自身が直接戦闘に踊り出る、『獣の力』を使って妖精達を兵隊化する。いくらでも考えられるが、想像を飛び越えて来ることはハナから折り合い済み。
現実なんてそんなもんだ。いつだって、現実は人の想像の上を行く。だがそれは何もショルシエ側だけの恩恵じゃない。俺達にもあり得ることだ。
幾重にも張り巡らせた策が、どうなっても良いように用意した準備が崩されるか、細い細い糸を手繰って、奇跡みたいな結果を得られるのかは俺達次第だろう。
「さて、まずはこっちでやることをやるか」
やれることはやった。人事を尽くして天命を待つと言うヤツだな。無論、俺が何もしないわけじゃない。
自分から言い出したことをやるわけだが、その前にもう一つやることがある。
真白と俺だけで決めた話だ。何せ、少しナイーブなモノでな。特に正義感の強い千草や朱莉は反対することだろう。
やることが捕まえた敵側勢力の無条件の解放だからな。良い顔はされないだろう。
「入るぞ」
ブローディア城の下層。殆ど人の来ない場所に作られた、ほぼ隠し部屋のようなところだ。元々は泊まり込みする警護の者などの仮眠室か何かだったらしいが、時代が進むにつれて使われなくなった場所、らしい。
詳しいことは知らない。知る必要もそんなに無いだろう。特に何がある訳でもないしな。
「うわぁっ?! 誰ですか急に?!」
「スマンな。あまり時間が無い。手短に話すぞ」
そこにいたのはピリアという少女。見た目は、まぁ16か17くらいだろう。妖精の歳なんて見た目じゃわからんがな。
少なくとも人間の見た目年齢とは一致しないのは確実だ。まぁ代わりに精神面での成長は遅めらしいから、年相応であるのには変わらないんだろうが。
「俺はミルディース王国の女王、真白の弟で名前を真広という。真白からの伝言と預かり物を届けに来た」
「……女王陛下の弟君?! し、失礼しました!!」
そういうのはいい。別に俺は偉くも何ともないからな。ただまともに取り合っても仕方がないからスルーだ。時間が無いのも本当だしな。
それに用があるのは真白だけじゃない。俺もコイツとは少し話をしたかったんだ。かなり一方的な話にはなるがな。どう受け取るかはコイツ次第。だから、作戦の人員としてまともにカウントしていない。
コイツがこの話に乗るか反るかは運しだいだからだ。
「ピリア、お前にはこれを渡す」
「これは……」
「お前も見たことはあるだろ。お前の持っていたビーストメモリー、『姫』とは少しばかり違うがな」
俺が預かったモノは合計で3つ。空のメモリーと思い出チェンジャー。そして『母』のメモリーだ。
そう、俺達の母親の魂が入ったメモリー。真白にとって、命よりも大事なメモリーであるのは間違いない。
それをピリアに託すと真白は言っていた。
「それは俺達の母親、前ミルディース王国女王プリムラの魂が入っている。俺達は『母』のメモリーと呼んでいる」
「は? え?」
「それと真白からの伝言だ。『必ず自分の手で返しなさい』、だそうだ」
畳みかけるように次々とアレコレ言われて、ピリアは目を白黒させている。ま、そりゃこうもなる。真白め、面倒な部分だけ俺に押し付けて来たもんだ。
おかげで、俺が全部説明しなきゃならん。全く、ガラにも無いことをさせようとするな。
「簡単に言えば、戦うための力だ。昴が帝国に向かったと言えば、わかるな?」
「――!!」
緊張と驚きでパニックになっていた視線が一気に引き締まる。頭が良い奴は話が早くて好印象だ。
ここからは俺がコイツにしておきたい話をするとしよう。




