獣の力を追って
ノワールと昴達のいる方向にも強いショルシエの魔力を感じるけど、どうにもあっちが『獣の力』周囲に振り撒いている母体ではどうにも無い様子。
ショルシエの考えそうなことだ。3年前のことも考えれば、カトルやベンデのような分身体とは違い単純な複製を作ることも可能なのだろう。
恐らく、そこかしこに端末としての複製を配置していて、それを戦わせる。
母体の方は戦わないからダメージはほぼゼロ。『獣の力』のコントロールに集中することで私達の妨害にも時間を割くことが出来ることも考えると非常に効率的だ。
ホント、ショルシエが好きそうよね。自分がどれだけ労力を割かず、安全に勝利することが出来るかがあの魔女にとって最も重要なことなのは変わらない。
それを探し出すことが出来れば、私達の有利は相当に近づく。一番暴れているだろう相手にはこちらも最強を押し付けて、私達は『獣の力』を操っている母体の捜索が仕事だ。
「全く、戦いの主役がこんな地味な仕事で良いのかい?」
「トップは大体裏方に回るものよ。地味な仕事ほどお金にも成果にもならないもの」
世の中というのは不思議なモノで、派手で目立つ花形仕事と言うのは現場で働く人達の特権であって、偉くなればなるほど地味で目立たたない、一つ一つの成果度合いが低いものだったりするのが世の常。
どちらにも良いところと悪いところはあるけどね。何にしたって、王様なんてその最たる例だ。
民衆の前に立つのも仕事だけど、その仕事の大半は地味でちょっとずつコツコツ積み立てて行くようなモノばかり。
いきなり成果を上げるようなド派手なパフォーマンスは見栄えこそ良いけど、その後の事を全く考えていなかったり、見た目ばかりで逆効果だったりと何かと裏がある。
政治ほど、地道な努力の積み重ねであることは先輩為政者のリアンシさんの方が知っていると思うけどね。
「君は嫌になるほどクレバーだよね。生きてて疲れない?」
「彼女はワーカーホリックですから。逆に仕事してないとストレスなんですよ」
「僕には考えられないね。仕事よりも寝てた方が幸せだよ」
「悪かったですね、仕事人間で」
なんでか急にバカにされた気分だけど、ワーカーホリックなのは自覚はしているから言い返すことも出来ない。
私にとって、我を通すことは役割をやり切ることと同義だ。私のやりたい事をやるために私の立場や役職を最大限に活用することが目的を達成する近道そのもの。
だから、私のやりたいことは仕事とイコールになる訳で、仕事をやればやるほど、私の心は満たされる。
「だからと言ってやり過ぎですけどね。早くパッシオさんを連れ戻さないとそのうち倒れますよ」
「わかってるって。そのための戦いでもあるんだから」
「ひゅー、熱いね」
黙ってリアンシさんの脛を蹴り飛ばして先に進む。行く先々にも如何にも様子のおかしな人達が徘徊していて厄介極まりない。
そういう人達は障壁で一旦閉じ込めて、そそくさとその横を通り抜けていくに限る。障壁の中で暴れる人たちをよそにすいすいと進んでいくのはなんだかズルをでもしている気分だけど、これが最も平和的解決方法だ。
「ふん、やはり貴様らか。厄介な連中だよ」
「あら、そちらから出向いてくれるなんて。貴女も気が利くことがあるのね、ショルシエ」
そうやって進んでいると、そのうち廊下の影からぬっと気配もなくショルシエが姿を現した。
魔力探知にも引っ掛からなかったあたり、即席の複製といったところだ。『獣の力』の影響範囲内なら複製画作れると見た。
それだけ母体に近づいている証拠でもあるだろう。いくら複製とは言え、作るのにノーコスト、ノーリスク、ノータイムなんて都合の良いことは無い。
手間暇をかけて、城のあちこちに複製ポイントのようなモノがあるはずだ。
出来れば、それも潰したいところだけど、それはズワルド帝国の『繋がりの力』でないと難しいでしょうね。




