帝王レクス
もう隠密行動も何も無い。私達も相当にドンパチしながら王城の中を突き進んで行き、向かって来るショルシエの分身。操られているのか正気を失っているような帝国兵。更には執事やメイド、事務官などに相当するような服装をしている人たちまで襲い掛かって来る。
滅茶苦茶も良いところだ。ショルシエの分身はどうでも良いけど、一般の兵、更には本来軍属ですら無い人まで襲って来るとなると、倒す人を選ばなきゃいけなくなる。
分身は私がぶち抜けば良い、軍人はちょっと痛い思いをしてもらって行動不能に。問題は本当にただお城に努めているだけの人達。
この人達は本来戦う相手じゃない。傷つけていい相手じゃないわけだ。人間界での戦争でも、一般人への無差別な攻撃はご法度。
ショルシエに操られているんだから、どれも一括りで敵で良いじゃないかと思うかも知れないけど、それを私達がやったら私達も無差別に帝国の人々を殺していいと言っているのと同義だ。
最悪な存在と同じ穴の狢になって良いのか? 良いわけが無い。少なくとも、私達はショルシエとは違う真っ当で正当な主張の下に戦っているんだと周囲に知らしめなければならない。
戦いっていうのは自分達が正しいんだと周囲にアピールするための行動とも言える。それがどっちもどっちの同レベルの対応でやり合っていたらそれはどっちもどっちだから喧嘩両成敗されてお終いだ。
だから私達は努めて清廉潔白な戦いを進めなきゃならないんだ。ルール無用の戦い方をしているショルシエ相手にそんなことをしてる場合かと言われるだろうけど、国家間の戦争レベルの戦いになれば大義名分ってヤツは絶対に必要だと真白お姉ちゃんにはこれでもかと叩きこまれたことだ。
「俺らに先に進まれるのが相当嫌らしいな!!」
「とにかく前に進もう!! ブラザー、手を貸してくれ!!」
「遠慮なくなって来たな!! 任せろ兄弟!!」
男子2人が切り込み隊長で突っ込んでいく。私と同じように飛翔能力を持っているブラザーメモリーと、剣による高軌道で高い攻撃性能を持つブレーダーメモリーが道を切り拓き、私とルミナスが打ち漏らしを片付け、スルトは非戦闘員を盾で昏倒させていくという連携で進んでいく。
「流石に数が多いって!!」
「あともう少しだ!!」
進めば進むほど、時間がかかればかかるほど向かって来る人数が増えて来ている気がするのは気のせいでは無いだろう。
あともう少しだというブレーダーの言葉を信じて、もはや全方位からの飽和攻撃に近い。
このチームになってからの最初の戦闘がこれだもん。遠慮なんて嫌でもなくなってくるよね。
そうやって何とかして進んでいった先、周りの扉よりひと際豪華な扉を蹴り開けたところで私達は本命と対面することになる。
「兄上!!」
「その声、スタンか?!」
その部屋は玉座の間、っていえば良いのかな。如何にも色々な式典などをしてそうな荘厳な装飾を施された広い一室は戦いの痕跡でボロボロになっていて、その厳かな雰囲気はもう殆ど残っていない。
玉座の前で片膝をついている鎧を着こみ、剣を松葉杖代わりにしている男性がどうやらスタンのお兄さんの帝王レクス。
こうして生の姿と声を聞くと、確かに話に聞くような暴君という雰囲気は全く無く、どちらかと言えば気さくなお兄さんと言う感じすらある。
少なくとも何らかの悪意を持っているようには到底思えない人柄を初見で感じるくらいには好印象の人だった。
「ほう、ここまで来るとはな。だが良いのか? ここで私に会ってしまって」
「こうなるのが嫌だったのはどっちかしらね?」
これだけ妨害して来たんだ。ショルシエの方が目的を妨害されたと考えて良い。目的は見ての通り、帝王レクスの殺害。
今はそれを阻止して、ここから撤退するのが最優先!!
【必殺!!】
「『固有魔法』!!」
「『ルミナスシュート』!!」
「『流星の煌めき』!!」
まずはショルシエを帝王レクスから引き剥がす。ルミナスと私が同時に固有魔法相当の魔法をショルシエに放ったことで私達の正念場が強制的に始まった。




