帝王レクス
「スタン!! スタン、止まって!!」
王城が崩れる様子を見て、一心不乱に駆け出したスタンを追って私達は帝国王城の正面を突っ切って行くことになる。
帝国の兵士なんてそこかしこにいるけど、王弟のスタンは当然顔パス。それを名前を呼びながら追いかける私達までスルーだ。
何せ、兵士達からすれば勤めている城が突然、何の前触れも無しに崩れたのだから、色々構っている余裕なんてないだろう。
それに隠密行動用のこのマントの効果はこういう混乱時には効果は抜群だろうし。
「おい、坊ちゃん!! 止まれって!!」
スタンの方は完全に聞く耳を持っていない。気持ちはわかるけど、ここでいきなりあの崩落現場に行くのはどう考えてもまず過ぎる。
ほぼ絶対にショルシエがいると言って良い。このチームはショルシエを相手にすることを想定していないチーム。
速やかに帝王レクスから『神器』を奪取して、安全圏まで戻り。『繋がりの力』を用いて妖精達を『獣の力』から解放する。
そのサポートをするのが私達の役割。ショルシエを相手にするのは他の魔法少女。出来ればフェイツェイお姉ちゃんやルビーお姉ちゃんに任せなきゃいけないことを私達に出来るわけが無い。
「スタンさん、どうしちゃったんでしょう。あんなに目の色を変えて、私達のいう事を聞いてくれないような人ではないですよね……?」
「普段なら、ね。アイツも大概、家族が物凄く大切だから」
普段の冷静なスタンなら、こんな一人で突っ走ることなんて絶対にしない。まだ付き合いの少ないリリアナさんですらそう思うんだから、スタンって言うのは基本的に大真面目な性格で自分をちゃんとコントロール出来るタイプだ。
それを唯一失うんだとしたら、それは家族の事。つまりお兄さんのことになる。
どれだけ倒すと言っても、スタンにとっては尊敬する兄。たった一人の家族。その人が襲われているかも知れないとなったら居ても立っても居られないという気持ちはわかる。
わかるけど、ここは我慢してもらわないといけない。私達がショルシエに会えば、標的はスタンになる。
そしてそれを守り切れるだけの実力をこのチームはまだ持っていない。あくまで、私達はサポートチームだ。
「はい!! 捕まえた!!」
「離してくれ!!」
「おい、暴れんなって!! 落ち着け!!」
昴さんとリベルタさんが何とかスタンを捕まえてくれて、乱暴だけど床に押さえつけ、暴れるスタンに私とリリアナさんも追いつく。
「スタン、落ち着いて。お姉ちゃん達からの指示は聞こえてるでしょ?」
「これが落ち着いて――」
思いっきり頬をぶっ叩いて黙らせる。びっくりするくらい、周りの面々の空気が冷え込むけど知ったこっちゃない。
今は何が何でもこのバカを止めなきゃいけないんだから。
「無駄死にするつもり?」
「そんなことは……」
「だったらショルシエに勝てるプランを言ってみて。無いなら頭に血が上ってるだけ。冷静にならなくたってわかるでしょ。スタンが死んだら、何もかもぱぁになるのよ? 今まで準備して来たことも、お兄さんの覚悟も全部無駄にしたいなら一人で死んで」
言いたくて言ってるわけじゃない。こんな酷い言い方、出来ることなら言いたくない。
でも、スタンのやろうとしてることはそういうことだ。コレで止まらないなら、両手両足を撃つ。そうしてでも止めなきゃ、私達に勝ち目が無くなる。
「……ごめん」
「わかってくれたのならいいよ。せめて、隠密行動で行こう」
「だね。運が良いことに私達はまだコレ着てるし」
せっかく隠密行動用のマントを持っているんだ。コレを使わない手は無い。
「こちらノワール。スタンを落ち着かせました。これから隠密行動に移ります」
【気を付けてください。特にショルシエには下手に近付かないでください】
「はい。帝王レクスの捜索に当たります」
【出来るだけ暴れて引っ張り出すわ】
ショルシエにコレがどこまで通用するのかもわからない。下手に先ほどの攻撃現場には近づけないけど、私達の目標は同時に帝王レクス。
……多分だけど、帝王レクスがショルシエに狙われたと考えていいと思う。
ルビーお姉ちゃんを筆頭に大暴れしてショルシエを引っ張り出すつもりみたいだけど、それに乗ってくれるかどうかは結構博打だね。




