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帝王レクス


「――くっ?!」


ギリギリだった。何とか、致命傷は避けたが片腕一本持って行かれた。利き腕じゃなかっただけマシだと考えるしかない。

この至近距離からの攻撃をこの程度で収められたのだと割り切る以外にポジティブに捉える要素が無い。


どこでしくじった。ここでショルシエが俺を裏切り、帝国という巣穴を失うリスクを背負う必要が何故ある。

これから魔法少女達と戦うというタイミングで戦力を無駄に失う必要性は無いハズだ。


色々な考えが頭に浮かんでは消えていく。だが、今それを考えるのは無駄なんだろう。何せ、目の前の『獣の王』は明らかに獲物を狩る目をしているからだ。


「ここに来て随分なご挨拶だ。俺と世界を取る野望は諦めたのか?」


「まさか。諦めてなどいないし、諦める必要も無い」


カツ、カツと歩を進めて来る。それを見ながら先ほどの奇襲で吹き飛んだ腕から漏れ出る魔力を抑え込み、簡単に治療をしながらショルシエを睨みつける。


片手で腰に下がっていた剣を抜き、構える。コイツと腕一本でどこまでやれるか。ここに来てこうなるとは思ってなかった。

裏切りが発生するなら、魔法少女が来て彼女達に勝てそうな時だと考えていた。


そこまでくれば、俺は不要だろう。そこで俺を殺すのはわかるが、戦う前に殺しに来るとは。バケモノの考えることは分からないものだな。


「ならば何故俺を殺そうとする。いずれ貴様に世界をくれてやるというのは本当の――」


「いい、いい。下手な芝居を見るのはもう飽きた」


「何?」


「貴様の腹積もりなど、最初から知っている。そう言っているのだ。帝王レクス」


そう言って、指先一つで膨大な魔力が振り下ろされる。ショルシエの攻撃は魔法ですら無い。基本的に膨大な魔力をぶつけて、敵をすり潰すのがヤツのやり方だ。


技術も何も無い。ただただその身に余る膨大な魔力そのものが武器。ただの防御魔法では飲み込まれてお終いだが、俺が剣を振ることでこれをやり過ごすことが出来るのは幸いだった。


「貴様の芝居は最初から分かっていた。貴様の目の前で先帝を殺したその時から、貴様はいずれ私を殺すために私に擦り寄って来た。そうだろう?」


「……」


切っ先がショルシエの魔力を切り裂き、俺はその当たれば死ぬ魔力の塊をやり過ごす。


最初から、分かっていたという訳か。と変な笑いが出る。俺は手のひらの上で踊らされていたという訳だ。

まさしく愚王。愚かで無能な、悪の帝王。その名は歴史に刻まれることだろう。未来永劫、その汚名が濯がれることは無いのだろうな。


本当に笑える。無様とはこのことか。


「貴様を生かしたのは私のただの気まぐれだ。私の提案を蹴ったバカな先帝を殺した次の瞬間に私に擦り寄って来るフリをして来たお前を見て、いい暇つぶしになりそうだと思っただけに過ぎない」


もう何年前だったかも忘れた。耐え忍んだ時間が長過ぎて、俺の時間感覚などとうの昔に消し飛んでいる。


覚えていることといえばあの日、ショルシエがミルディース王国でクーデターを起こした数日後、『獣の王』はその足でズワルド帝国へとやって来ていたということだけだ。


ミルディース王国の混乱を聞いていた我々帝国王家はその原因が目の前に来たバケモノのせいだと瞬時に悟ったことを今でも覚えている。


我が父である先帝はショルシエの『神器』を寄越せという提案を即座に拒否し、その場で殺された。


一瞬の出来事だった。老いた父は剣を抜く事すら出来ずにショルシエの尾に貫かれ、次に妃である母の首が飛んだ。


あの時ほどスタンに放浪癖があることを喜んだ日は無かった。

もし、あの時アイツがあの場にいたら、きっとアイツは殺されていただろう。


あの場にいたのが俺だけだったからこそ、あの茶番は成立したというわけだ。


ショルシエにとってはただの暇つぶし。俺にとっては命を賭けた大博打。


俺という道化がどう踊るのか、それを見て楽しんでいたのだろう。

このバケモノはそういう生き物だ。人が絶望し、途方に暮れ、どうにもならない状況でもがき苦しむサマを見て嘲笑う。


本当にクソみたいな趣味だが、そのおかげで俺はこの日まで生きて来たのを考えると皮肉なものだ。


「ならば最後まで踊らせておけばいいものを。もし本当に俺が貴様に協力していたら、どうするつもりだった?」


「変わらんよ。飽きたところで殺すまで。所詮、貴様ら妖精の王はこの私から獣を奪うために作られた模造品。『神器』と『繋がりの力』を使うためだけの器に過ぎん。用済みの器は割って捨てるのが道理だろう?」


ふははは、つまり俺はあの時から死ぬのが決まっていたわけだ。

いや、俺としても死ぬつもりではあったがな。死んででもこのバケモノを殺せるように策を講じていた。


それが俺の予想より、ほんの少し早かっただけに過ぎん。


「ふっ、それほどまでか」


「虚勢は無駄だぞ。貴様の部下どもは全て『獣の力』に汚染され、私の配下にある」


「それほどまでに『神器』と『妖精の王』が怖いか? 『獣の王』。まるで狩られる前の小動物のようだ」


だがな、『獣の王』。


「所詮は逃げてばかりの無能の『王』。どれだけ大層な口を叩いても、貴様は一度たりとも勝ったことのない、敗走者でしかないだろう?」


「……貴様ぁ、楽に死ねると思うなよ?」


俺の策がただ大法螺を吹くだけだと、本当に思っているのか?


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