最終決戦
その後の道中も変わらず、昴さんは人助け、リベルタさんが主に私達の壁役、スタンが道順の指示、私が周囲の監視、リリアナさんが細かなフォローと言った感じである程度臨機応変に対応しつつ、歩みを進めていた。
「おねーちゃんありがとー」
「もうリード離しちゃダメだよー」
今度は小さな男の子のペットと思われる大きなトカゲに似た生き物が壁を昇って戻ってこなくなってしまったのを降ろしていた。
手をぶんぶんと大きく振ってお礼を言いながら家に帰って行ったであろう少年を見送っている姿は気のいいお姉ちゃんと言ったところか。
「よく素手で行けたね」
「あれくらいならへーきへーき。一々ビビってたら沖縄で生きてけないよ」
あぁ、そう言えば沖縄出身だって言ってたっけか。にしたってトカゲっぽい生き物を素手で行くのは結構勇気いると思うけどな。
私達の中でも喜んで触るのなんて爬虫類とか両生類が好きな紫お姉ちゃんと、ドラゴンに馴染みのある朱莉お姉ちゃんくらいだと思う。
ビビるってよりはこう、知らないものに触る嫌悪感とか警戒心とかが中心だと思うけど、それにしたってと言うところだ。
肝が基本的に据わっているんだろうなと思う。じゃなきゃ数か月で戦いの中に身を投じるなんてこともしないか。
恐れ知らずな性格ってことかな。無鉄砲とも言えるだろうけど、その辺は周りの人達でフォローするところだろう。
「おう姉ちゃん、スゲーな!! あんな壁を昇って行くなんてよ!!」
「獣人だってあんな簡単にはいかない。見かけによらず相当鍛えてると見た」
「へへへ、これでも用心棒で食べてるからね。そんじょそこらの魔物には負けないくらいの実力はあるよ」
おぉぉ、と昴さんが筋肉自慢っぽさそうな種族のお兄さん方に囲まれてお喋りしているのも怖いもの知らずというか、ビビらない性格を物語っている。
彼らは少年がペットを逃がしてしまって泣いているのを最初に見つけてどうにかしようとあれやこれやとしていたみたいなんだけど、それを颯爽と現れた昴さんがささっと解決したことで賛辞を送っているみたいだった。
用心棒をやっているという設定は何かあった時のダミー情報の1つなんだけど、決めておいて良かったなとも思う。すらすらと言えるし、情報のブレも無いし昴さん達を含めた私達の実力は用心棒や傭兵と言っても疑われることはないだろうし。
「変身もしないで身体強化……、しれっとやってるけどだいぶ高等技術なんだけど」
「そうなのかい?」
「人間の身体スペックは妖精界のヒト型種族基準で考えれば一番低いまであるわ。代わりに脳容量、まぁ頭が良いんだけど」
昴は3mほどの幅がある建物と建物の間を左右の壁を交互に蹴って上に駆け上って行った。勿論、ただの人間にこんな真似は出来ない。
それどころか、変身をしていない魔法少女でもこんな芸当を出来るのはA級かB級の上澄みくらいだ。
妖精界の種族ですら、身体強化の魔法を使えるのは訓練されたごく一部の人。人間界でとなれば更にその数が少なくなるのは当然。
それをしれっとあんなにスムーズに使うあたり、相当訓練を積んだことがわかる。
「そもそも人間は魔法少女に変身しないと魔法が殆ど使えないのよ。私なんかもちょっと脚が速くなるくらいの効力しか出せないし」
「そうなのか。僕はてっきり魔法はいつでも使えるものだと思っていたけど」
「まぁ、魔法少女はだいぶ特殊だしね」
変身しないで高い効力の魔法を使えるのは真白お姉ちゃんとか朱莉お姉ちゃん、要お姉ちゃんくらいだ。
何にせよ、この三人は純粋な人間じゃない。どっちかと言えば人外寄りだから出来ること。
例外と言えば、高嶺流の魔法を使える美弥子さんとか執事長の十三さんくらいだ。アレも高嶺流がおかしいって言うのが正解だし。スタンの間違っていた認識はまぁ仕方ない。