最終決戦
しばらく首都を歩いて、何事もなく進んでいく私達。
その中で私が思った事の1つとして、犬も歩けば棒に当たるという言葉があるけれど、昴さんが歩けば人が笑うという諺があっても良いと思う。
なんてことが頭に過るくらいには昴さんが通った後には人の笑顔があった。
「ぷはっ、コレ美味しいねぇ。ラムネみたい」
「ラムネ、はちょっとわからないけど、帝都自慢の清涼飲料さ。僕も好きでよく飲む」
そして今は、昴さんがした人助けのお礼にと貰った炭酸ドリンクを片手に皆で路地裏で休憩しているところだ。
昴さんの言う通り、人間界でいうところのラムネのような味がする。でも香りはちょっとスパイシーだ。初めて妖精界由来の飲食物で美味しいと思ったかもしれない。
「へぇ、こりゃ美味いな」
「舌がびりびりします……」
美味しいと評価されて自慢げのスタン。リリアナさんは初めての炭酸飲料みたいで舌を出している。案外子供っぽいんだなぁと思いながら、私も一口飲む。
うん、サッパリしてて美味しい。
「なんだか観光みたいだね」
「昴さんの作戦のおかげだよ。まさかこんな大胆な作戦がここまで上手くいくなんて思ってもいなかった」
「同感。色々逆手に取ってる感じ」
ショルシエも帝国の兵も侵入はともかく、移動をこんな大胆にやってるなんて思ってもいないだろう。
しかもここ数か月で加入したルーキーが、だ。場数の少ないからこその発想とも言えるし、あらゆる方向から逆算して、裏をかいているようにも見える。
一見、ただの天然な人にしか見えない昴さんなんだけど、何となくちゃんと打算的な気配もするんだよねぇ。
自然体だけど、気持ち良くハマり過ぎている感がどうしても否めない。
それが悪いとか、気に食わないとかそういう話じゃなくて、陽気で明るそうで何にも考えていないような雰囲気の中に見え隠れするビックリするくらい冷静で狡猾な一面があるような気がしてならない。
「いやぁ、それほどでも。逆に目立ち過ぎちゃったかな」
「良いんじゃねぇの? 人助けすることで悪いことになるってのは考えづらいだろ」
「短期間で味方を増やすのならアリだと思います」
ほら、こういうところだ。逆に、ということはある程度の打算があるから目立つ行動。小さな人助けをたくさんしているってこと。
別にその行動自体に裏がある訳じゃなくて、何度も小さな善意の中心になることで周囲の人々に自分の顔を覚えてもらおうって感じだと思う。
敵地でいい印象を不特定多数の人に持ってもらって、いざという時に味方になってもらう。
そういう打算が密かにある昴さんの頭の回転の早さには驚く。
「少しだけ時間は掛かるかも知れないけど、焦って失敗するよりは良いよね?」
「まずは確実性の方を優先したいね。昴さんのしてることも悪目立ちってわけじゃないし、良いと思う」
「時間かけ過ぎはNGだけどね。流石にあと2時間以内には目的地に着いた方が良いと思う」
時間は人間界換算で言うと午前10時くらいかな。お昼までには着いて、今日中には作戦を開始しないと色々支障が出て来る。
潜伏ってリスクも大きいしね。出来るだけ時間は短い方が良いのも事実。
「上手くバランスを取って行こう」
「その辺の頭脳労働は任せるぜ坊ちゃん。俺は2人の壁役すっからよ」
「周囲の監視は任せて」
「それじゃ私は今まで通りで」
「私は皆さんのフォローで」
五人でそれぞれきっかり役割分担をして、良い感じのチームプレイが出来て来ているように思う。
案外、悪くない感じ。適度に肩の力を抜けるのはリラックスして集中できる環境なのは私としてもありがたいことだ。
狙撃は集中力だからね。リラックス出来てないと当たるものも当たらなくなる。
「よし、行こう。目的地まで行くだけなら1時間。スバルさんの作戦も考慮したらスミアの言う通り2時間くらいだと思う」
方針が決まったところで、スタンが手を叩いて休憩タイムは終了。私達の雰囲気も引き締まって、私達はまた大通りへと向かった。