最終決戦
昴さんの考案したこの作戦のおかげで私とスタンはかなり楽をしていた。特にスタンは気が楽だろう。
この国の王弟、ともなれば顔は広く知れ渡っているハズ。旅でほっつき歩いていたとは言え、首都を好き勝手に誰の目も気にせずに歩いたことなんて流石に一度も無いんじゃないかな。
諸星の家の者が、学校や社交界で歩いて声をかけられないことが無いのと同じだ。あの窮屈さを私は知っている。
私は自由に動き回りたいのに、周りがそれを許してくれない。常に一挙手一投足を誰かに見られているのはそれだけ注目を集めているという事でもあるのだけど、言い方を変えれば常に監視の目を向けられているとも言える。
迂闊なことをすれば、まるで鬼の首を取ったように大手を振って主張して来る嫌な人は沢山見て来た。
その逆で弱ったところに擦り寄って、少しでも利用してやろうとしている人達も山ほど。
私達からすれば、それらを全て取っ払ってくれている昴さんのような存在は貴重と言える。
私もスタンもどうしたって目立ち、人の上に立たなきゃいけない立場にいる。ノブリスオブリージュ。
地位の高い身分にいる者はそれだけで社会的な責任を負わなければならない。とは言うし、理屈は分かる。
強いものが弱いものを守らなければ、世界はあっという間に破綻するから。
だからと言ってそう簡単に納得できるわけがない。皆が当たり前に享受している普通を私達は手に入れられない。
普通の友達すら、私達にとっては手の届かない遠いものだったりするのだ。
何故なら、私達の友人という存在は常に血筋の影響を受けるから。打算の無い、ただ気が合ったから友達になるのではなく。将来有利に立ち回るための人脈作りが私達の友人関係の本質だ。
「アカリさんが燃え滾る太陽で、スミアが綺麗に輝く星の光なら、昴さんの光はまるで人を導く街灯だね。迷っている人を導いて、不安も何もかも消してしまうくらい眩い光だ」
「ちょっと眩し過ぎるきらいはあると思うけどね」
ノータイムで私達の懐に飛び込んできた時は驚いた。諸星に帝国の王族だよ? 普通の人ならちょっと引くまである。
だって言うのに昴はなんの躊躇いもなく私達との距離をいきなり0に近いレベルまで踏み込んで来たのだ。無遠慮とも言うけど、正直びっくりして笑ってしまいそうになった。
こんな人、いるんだなぁって。気心の知れた魔法少女みんなだって、初対面はもうちょっとゆっくりと歩み寄ったからここまで仲良く出来ているのに、昴さんは遠慮無しだ。
流石に初めての体験過ぎて、色々感情をすっ飛ばして面白くなってしまったのがつい先日の話。
こっちがビクビクしているのがバカらしくなって来るくらいに無遠慮で、平等で、分け隔たりの無い態度は見てて気持ちがいい。
「ちょっと先行ってて!!」
昴さんの後姿を見ながら、私とスタンがそう評価しているとほら、昴が後先考えずに飛び出して行ってしまった。
人混みを掻き分けて行った先にいたのは、買ったものを落としてしまったお婆さんが困っているところ。
私だったら無視しているし、周辺にいた周りの人も見て見ぬフリをしていた中でわざわざ私達から離れて手伝ってしまうのが昴さんという人だ。
「あんまり離れないでくださいよー」
「しゃあねぇなぁ、大将は」
「らしいじゃないですか」
リリアナさんとリベルタさんは慣れた様子で声をかけて、私とスタンが歩きやすいように壁になって歩いてくれる。
身体の大きなリベルタさんが歩を進めるだけで人波が避けていくのは少し見てて面白い。
遠巻きに昴さんの方へ振り返ると、昴さんがお婆さんが落とした物を拾い始めてから、周りの人も同じように拾い始めていた。
昴さんの行動が、周囲の人の行動を変えた結果だ。あぁいう影響力も昴さんが光のようなモノだと言い表せる理由の1つだろうな、と思った。