最終決戦
明朝、暗闇の中を切り裂く冷たい空気の音が耳に届く。バタつくコートを抑えて、白くなった息を吐く。
「案外ドラゴンの背中って快適なのね」
「だな。てっきりケツが痛くなるもんだと思ってたぜ」
私達は今、夜が明ける寸前の妖精界の闇夜の中をドラゴン達の背に乗って移動していた。その乗り心地は案外快適だ。
感覚としては小型セスナに乗っている時に近い。浮遊感はあるけど、バタバタと暴れる感じや背中やお尻が痛くなりそうな気配は無く、快適なまま帝国上空へと向かえそうだった。
「妖精界を治める王の1人にそう言っていただけるのなら光栄です。私どもは自分達の背に乗る経験など無いものでどういうものかわかりませんから」
「そら自分で飛べる奴は飛んでるヤツの背中に乗る訳ないわな」
「えぇ、仮に怪我をした仲間を運ぶときも背に乗せることはありませんから」
ではどうやって運ぶのかと聞いたら、適当に腕力で持ち上げたり、最悪尻尾とか噛んで飛ぶらしい。可哀想に。
「最強のドラゴン種が怪我するのがそもそもあっちゃいけないのよ」
「耳が痛いものです」
私達が乗っているのは若いドラゴン達のリーダー的存在だと言うヴァン君だ。他にも若手のホープ的な存在のドラゴンが合計で4体が私達の移送のために動いてくれていた。
「私達としては平然とドラゴンの飛行速度に追いついている一部の方々について物言いたいですね」
「フェイツェイはともかく、クルボレレは気にしたら負けよ」
「空を走ってるのは私も意味が分かりません」
「昴達見てみろよ。驚き過ぎてガン見だぞ」
シャイニールビーとフェイツェイは自前の翼があるので飛んで移動するのはわかる。なんでクルボレレちゃんは平然と空を走っているのだろうか。
いや、貴女そんなこと出来るって聞いてないんだけど。切り札その3くらいの役割を担ってもらう予定のクルボレレの想定以上の成長に目を剥く。
彼女の速さは絶対に武器になる。世界最速の生物なのは確実。唯一無二の能力はショルシエの想像を軽く超越しているハズだ。
だから、彼女を遺跡の調査という縁の下のポジションに配置していたのだから。
これは妖精界に入って、割と早々に決めたことだったりもする。長い仕込みだったが、後々絶対に利いて来るだろう。ショルシエはクルボレレの実力を正確に把握できていないハズだから。
「新しい装備の調子はどう?」
「サイコーっすね。他にも色々あるんすけど、何でも出来そうっすよ」
「そう、頼むわね」
「うっす!!」
クルボレレには新しい装備が幾つか投入されている。その中には私も正確に把握していないものも幾つか。
装備の多さの原因はその試作機の多さだ。アメティアとノワールが堅実な装備アップデートをされている中で、クルボレレへの提供装備は色々ある。
惜しみのない新技術を投入してある。その中には世の中を変えるような革命的な技術も含まれているとかなんとか。
舞ちゃんが警護していた『轟きの遺跡』から出て来た様々な発掘品がそれをもたらしているというのも数奇な運命だと思う。
「そろそろです!!」
スタン君の言葉に私達は一斉に眼下を見る。下に広がるのはズワルド帝国の首都。まだ夜の闇に包まれている妖精界で最も発展している街は人間界のような明かりは少なく、最低限の数しかないのが見て取れる。
ここからが最終決戦だ。あともう少しで夜が明ける。その直前。妖精界特有の昼と夜が瞬時に入れ替わるタイミングを狙って、私達は侵入を開始する。
「全員、降下準備!!」
「カウント行きます!! 降下5秒前!! 5・4・3・2・1……」
「降下!!」
アズールの号令とアメティアのカウントダウンと同時に私達は一斉にドラゴン達の背から飛び降りていった。




