最後の作戦会議
「妖精達と一緒に戦うのは、場所的にも難しいから。今回は出来るだけショルシエの『獣の力』を無力化するだけして、私達だけで戦うことになると思う」
パッシオ達妖精が集まっているのは、ミルディース王国の中でもかなり辺境。人が少なく、周辺に目立った集落も無いような場所だ。
もし、また暴走してしまった時に最小限の被害に食い止めるための場所を計画的に選んだのだろう。
そこから、定期的に妖精を各地域に数名送り出し、レジスタンスの団長という肩書とかこの騎士団副団長という経歴などを使って各地の妖精達を自分達のところへ隔離させているらしい。
「全く、最後の最後までお人好しなんだから」
「それがパッシオ様ですよ。カレジさんが考え、パッシオ様が実行する。他にも優秀な方々がたくさんいますから遠く離れていても出来るだけ真白様のサポートをしようとしているのでしょう」
妖精達、全員が全員いう事を聞いてくれるわけではないだろう。移動させるのが難しい体調の人や高齢者や子供なんかは長距離の移動をさせるだけでも大変だし、無駄に敏腕ぶりを発揮しているのがわかる。
「お迎えには上がらないのですか?」
「パッシオが自分で決めたことに私が水を差すわけにもいかないでしょ。それに『獣の力』を無力化しなきゃどのみち妖精達は前線に連れて行けない。色々言いたい事はあるけど、今はこれが最善だから」
「……揃って頑固なんですから」
肩を竦められてそんなことを言われても冷静に考えれば考えるほど、パッシオの行動は理性的で最善の行動と評価する以外ない。
それを無に帰すようなことをするわけにはいかないわ。
そりゃ、会いたい。今すぐにでも会いたい。寂しいし不安だ。何より生活にある彩りが減った。
私の日々の生活に色が無いというには随分贅沢をしている自覚はあるから、色が無いなんては言えないけど、それでも中心にある彩りが消えた喪失感はいつだって大きい。
3年も離れて、再会して、また離れてと繰り返したからこそ、よく分かった。
私はパッシオと離れたくない。そのためにはこの戦いに絶対的な勝利をもたらさなければならない。
撃退や封印では足りない。完全に、ショルシエを討ち取らなければいずれ同じことが起きる。
それが遥か先の未来であっても、無い方が良い。だから、今はそっちに集中する。
「真白様も結構独占欲強いですよね」
「ただでさえ我が強いんだから、独占欲だって強いもんなんじゃない? 束縛しないだけ優しいと思うよ」
我が強い人なんてそりゃ独占欲だって強いよね。だって我が強いんだからさ。自分を主張する声がデカい人がそうじゃないってことはないでしょう。
「そっちまで行くと独占欲というより独りよがり、ですからね。病み病みちゃんが許されるのはフィクションだけですよ」
「結構鋭利な言葉でいくねぇ……」
時々美弥子さんは言葉のエッジが鋭くて怖い時がある。たぶん、そういう人が生理的に無理なんだろうなと思う。
やっぱり美弥子さんも大概こっち側だよ。ちょっと立場が違ったら私達と一緒に戦っていたりしたんじゃない? と思う。
「まぁ、お2人がそう決めたのなら私からは何も言いません。それに、私が思うところでは」
「ん?」
「迎えに行くのは真白様ではなく、パッシオ様になると思いますから」
「え、なんで?」
現状、離れたのはパッシオ側で状況的にも迎えに行くのは私の方になるだろう。戦いが終わって、妖精達に『獣の王』からの呪縛から解き放たれたことを伝えに行くのが私の役目の1つだと思っている。
美弥子さんはそうじゃないと予想しているようだけど、どうしてだろうか。
「案外、あの人はテンプレに拘りますからね。お姫様を迎えに行くのはナイトの務め、ですよ」
「……美弥子さんって案外ロマンチストだよね」
パッシオにその気が無いとは言わないけどさ。私よりムードとか雰囲気とか気にするのは間違いないけど、そう簡単なことじゃないと思うよ。今回は流石に。
「いえいえ、案外男の人ってこういうところ譲りませんよ」
「恋人もいない人に言われても――」
まさか従者に殺気をむけられるとは思わなかった。今後冗談でもこういうことは言わないようにしようと誓いながら、私は明朝から始まる最終決戦に向けて身体を休めた。
 




