最後の作戦会議
事情を知る人間界サイドの者達が全員息を呑んだのが分かった。勿論、私自身もだ。
「『人滅獣忌 白面金毛の九尾』ってなんだぁ?」
「名前からしてとんでもないバケモノというのは確定ですね。すみません、僕たちにも教えていただいても?」
妖精界出身の面々からは不思議そうな顔をされるけど、私達の雰囲気からとんでもないバケモノだということだけは察したらしい。
「『人滅獣忌 白面金毛の九尾』はS級魔獣というかつて人間界に3体いた最上位魔獣の内の1体だ」
「私達が魔法少女になる前のもうひとつ前の世代の魔法少女。番長さん達の世代の魔法少女が命を賭けてどうにかした、想像する通りのバケモノです。今の私達ですら勝ち切れるか」
実際に相対したS級魔獣、『天幻魔竜 バハムート』、『大海巨鯨 リヴァイアタン』は今でも戦って勝てるかは不安だ。
3年前よりは絶対に勝率は高いだろう。高いだろうが絶対に勝てる保証は無い。60%の勝率を超えることは無いんじゃないだろうか。
何せ、S級魔獣の攻撃は全て必殺の威力。こちらは一撃も受けてはならず、あっちはこっちの必殺が通用しないことがザラだ。
そう考えると当時のシャイニールビーはよくバハムートに勝ったものだと思う。何故勝てたのかはたぶん本人が一番疑問に思っていることだろう。
がむしゃらに戦っていたら勝っていた、と朱莉は言うんでしょうね。
「それがショルシエの、『獣の王』の本体だと?」
「むしろ、そう考えると自然だ。『獣の王』もS級魔獣もどちらも俺達より遥かに驚異的な力を持つバケモノ。文明や世界を滅ぼすには十分な力を持った存在だからな」
S級魔獣は2体が討伐、1体が封印と言う形で無力化されている。討伐されたのはバハムートとリヴァイアタン。封印されているのが九尾。
もしどれか一つでも完全な形で存命していたら、人間界は今以上に壊滅。あるいは完全に人間は滅んでいるだろう。
そう考えるとショルシエの目的とS級魔獣の目的は同じとも言える。
朱莉の話ではバハムートは強い破壊衝動で人間を襲っていたというし、リヴァイアタンも満たされない食欲によってあらゆる物を飲み込んでいたらしい。
「番長、『人滅獣忌』について何か知らないんですか?」
「私も当時直接戦闘に関わったことは無いからな……。『人滅獣忌』の周りには常に大量の獣型の魔獣がいてな。私やドンナ、ウィスティーなんかは先生たちの露払いを主にしていたんだ。ただ、一般に公開されていない情報の中に人の言葉を話した唯一の魔獣だとは聞いている」
「なんか、そう聞くとショルシエみてえだな。妖精の、獣の姿のショルシエって感じだ」
常にいる取り巻きの獣型の魔獣に人語を介する知能。ショルシエ=『人滅獣忌 白面金毛の九尾』の可能性を聞いてから番長の『人滅獣忌』に対する情報を聞くともうそれはショルシエにしか聞こえなくなってくる。
あまりにも、『獣の王』として聞いているショルシエの能力と酷似している。
「思い返せば、魔法庁の研究者として在籍していたショルシエはS級魔獣について熱心に調べていたように思う。あの時はてっきり【ノーブル】の目的達成のためにS級魔獣について調べていたのだとばかり思っていたが……」
「自分の本体が今、どう言う状況なのかを調べていた可能性はありますね」
東堂さんもこう言う始末。いよいよ怪しさが増して、現実味が増して来たけどこれらはあくまで状況証拠。私達が勝手に思い込んでいるだけかもしれない。
人間の記憶なんて曖昧だし、その時持っている印象で思い込んでしまうものなのだから。
「でも、なんで本体がこっちなんですか? ショルシエは臆病でビビりなんですよね?」
「それと同時に、アイツは弱者を蹂躙するのが大好きなんだ。当時の人間界には魔獣に対してまともな対抗策が無かったからな。より狩りやすい獲物が獲物がいる狩場に動いたと考えれば一応矛盾はしない」
昴の疑問はごもっともだけど、真広はショルシエのもう一つの側面を掲示することで矛盾は無いことを説明する。
『獣の王』として、より獲物の多い狩場に移動するのはあり得る話だ。そうやって好き勝手に人間を狩り続けていたら、魔法少女が誕生しそれに封印された。
ようは油断した結果なのだが、それもまたショルシエらしさを感じる。
「何にせよ、確認する必要がある。ありとあらゆる可能性は考慮しておいた方が良いし、何よりこれは好機でもある」
ははーん、真広が何を考えているのか分かって来たわ。真意はそこか。成程、確かにそれは好機だと私も思った。