最後の作戦会議
「これは正直に言って勘だ。博打の類に入る」
「このタイミングで博打に乗れと?」
「千草っ」
まだ噛み付く千草に注意をすると面白くなさそうに舌打ちをしながらまた黙る。全く、話も聞かずに攻撃態勢に入らないの。真広は真広の意見がある。主張を聞く前に叩き潰すのは絶対的にNGだ。
まずは聞いて、それが理屈に沿わないのなら反論すれば良いだけ。今日はそのために集まっているんだから。
「んで? その勘とやらで何をすんだ?」
「人間界に行く」
「人間界? なんでまた」
私達のリーダー、碧ちゃんがここは音頭を取る。これで千草も下手に噛み付けないから、流石は碧ちゃんだ。
そしてその問いかけに対する真広の返事は人間界に戻る。というものだった。いや、戻ると言うより人間界でやることがある、って感じの言い方だ。
でも当然、今更人間界に戻って何をすることが? と全員で首を傾げることになる。
3年前ならともかく、今の戦いの舞台は妖精界だ。人間界に戻るのは意味のない行動の様に思うのだけど、真広はどうしてその考えに至ったのだろうか。
「ずっと引っ掛かっていたんだ。そもそもなんで、ショルシエはまた人間界と妖精界を繋いだんだ?」
「そりゃ、王家の血筋を引く真白と『神器』なんじゃねぇの?」
「だったらほっとけば良かったんだ。妖精界と人間界はその『神器』、『摂理を弾く倫理の盾』で塞がれていたんだからな。この戦いの要になっている真白の『繋がりの力』だって人間界に封じ込めておけたんだ」
そう言われると確かに、と納得する。元々目的が不明瞭で世界を滅茶苦茶にすることそのものが目的だという結論に至ってこそはいた。
だけど、その目的を達成するならそもそも人間界を放置しておけばよかったのでは? 成程、そうすれば自分を倒す可能性のある『神器』も『繋がりの力』も潰せる。
そもそも王国をクーデターで滅ぼしたのはそういう目的の為だったのではないのか。そして、人間界まで分身体を寄こして来たのも『神器』を奪い、王家の血筋を絶やすことだったハズ。
3年前の戦いはそういう目論見が確かにあった。『神器』を狙っていたし、私を利用するだけ利用した後に殺すつもりだったのは私自身が体験している。
結果としてショルシエ側は敗北して、私達は『摂理を弾く倫理の盾』を使って人間界と妖精界に空いていた穴を塞いだ。
それを放置しておけば、ショルシエは妖精界での侵略行為をもっと楽できたのだ。
「てっきり、『神器』を奪うためにわざと二つ目の穴を空けて、刺客をおくって来たとばかり思っていましたが……」
「確か、エストラガルだったか? 帝王レクスの懐刀だという。そいつは『神器』と真白を狙っていると言っていたのは覚えている。が、この矛盾だ。ここ最近の情報を整理していけばいくほど、この矛盾は無視できないと思った」
そう、私達の住む街の近くに再び空いた穴から来た帝国からの刺客の妖精達を束ねていたエストラガルと言う破壊属性を操る妖精は確かに私と『神器』を狙っていた。
だが同時にショルシエは目的をはぐらかしていなかったか?
あぁそうだ、確かショルシエはこう言った。
【わざわざ語ってやる必要も無い。シンプルに行こうじゃないか。君と私は決して理解し合う事のない敵同士だ】
だから私達は全力で応戦したのだ。敵としてもう一度立ちはだかるなら戦うまでと。だけど、実際のところはショルシエ自身は自分の目的を一切口にしていない。
エストラガルを動かすために使った理由は『神器』と私なのだろうけど、ショルシエの目的は明かされておらず、はぐらかされているのではないか?
でも、何のために? 帝王レクスの策略? それともショルシエ側のミスリード? 少なくとも何か真意があるはずだ。
わざわざ私と『神器』を狙う理由、あるいはまったく別の――。
「ショルシエは、どうしても人間界に行きたかった……?」
「俺はそう思っている。『神器』や真白をどうこうしたいっていうのは建前で、ショルシエは何としてでももう一度人間界に行きたかったんじゃないか、って」