最後の作戦会議
「で? そこから先は」
「クルボレレがかき乱しながら、敵を釣り上げていくのが基本です。各自、誰が誰と戦うことになるのかはその時の流れになってしまうことになると思います」
肝心なそこから先の作戦は正直に言って有って無いようなものと言って良いだろう。本当なら、時間をかけてこの部分の作戦を綿密に組んでいくハズだったのだ。
どこに誰がいるのかを把握し、戦闘になるであろうショルシエ側の戦力を把握し、そこに適切な人材をぶつける。
それが出来るようになるには時間をかけて調べ上げる以外の方法が無かった。
スタン君が合流しズワルド帝国側の情報が手に入りやすくなった矢先に、妖精の暴走事件が引き起こされたせいでその部分の詰めが出来なかった。
「もし、実力に見合わない相手や相性の悪い相手に接触した場合は無理に戦わずに逃げに徹してください。特に昴さん達は4本尾以上のショルシエの分身体との戦闘は避けるように」
「了解です」
「ま、仕方ねぇわな」
4本尾は、確かカトルという分身体だったか。その辺りから昴達が相手をするにはまだ荷が重い相手になって来るだろう。
私からすれば彼女達に分身体との戦闘自体がリスキーだと思うのだけど、この戦いで最前線に突入する以上、分身体との戦いは避けられない。
ショルシエ側も私達が一転攻勢に出ることをわかっているハズ。分身体にも何らかの形で強化を図っている可能性は高いことを考えると、昴達に行ってもらう戦いは勝つための戦いではなく、敵を引きつけ、時間を稼がせることだ。
それが出来るのが3本以下がギリギリという判断だ。私達が過去に3本尾のショルシエと戦って、どのくらいの強さかは肌感覚でなんとなくわかっているが、よくもまぁこの短期間でそれが出来ると判断できるまでに成長したものだと感心する。
成長のスピード、と言う点では明らかに私達魔法少女よりも昴は優れている。模倣が得意なだけだと本人は言うが、その模倣が出来るようになるのに普通はもっと時間がかかるのだ。
疑いようのない天性の才能だ。それに食らいついて行くリベルタ、リリアナの2人のガッツも相当なもの。
そこに頭脳派のスタン君と、戦い慣れたノワールがサポートに入ることになっている。そうなれば、場数の少なさを補えるだろう。メモリースターズは、今や戦いの素人集団ではなく、立派に戦えるグループへと成長を遂げていた。
これに関しては嬉しい誤算と言って良い。単純な戦力増強だからね。
「昴さん達が分身体との戦闘を避け、帝王レクスと接触できるように残った私達はクルボレレが釣り上げた分身体を始めとした敵勢力を逐一戦闘を開始、これを打破してください」
「一応、ある程度狙った相手と戦って良いんだな?」
「打破出来れば問題ありません。特にショルシエに関してはシャイニールビーとフェイツェイ、グレースアが相手をするのが望ましいですが、そうも簡単にはいかないでしょう」
「そんな都合よくいったら苦労はしないものね」
先ほども言った通り、それをするための時間を奪われてしまったので、これは願望に過ぎない。
とにかく、基本方針はスタン君が帝王レクスと出来るだけ速やかに接触、戦闘を開始して『神器』を奪取。
『神器』と『繋がりの力』を用いて、『獣の力』を用いた妖精の暴走を無力化。
そうしなければ、私達は妖精の暴走といういつ起きるかわからない爆弾に怯えながら戦わないといけない。
帝国内でも当然起こったであろう妖精の暴走。それを引き起こされるリスクは出来るだけ排除したいし、これがある限り私達の勝利は遠のいて行く。
これは妖精と言うこの世界に当たり前にいる隣人を取り戻すための戦いでもあるのだ。そのためには妖精が他の種族との軋轢がこれ以上広がらず、一般市民にこれ以上無意味な被害が広がらないようにしていくのが私達の責務と言えるだろう。
ショルシエも私達の目論見自体は読んでいるはず。だからこそ、正面から乗り込むのではなく、奇襲するような形をとるのだ。




