最後の作戦会議
「それにしても大胆なことを考えるね。最短距離を最速で隠密行動だなんて」
「それが最善ですから」
時間が無い以上、最短最速でやらなければならない。国境付近での3国の軍の睨み合いも時間をかければかけるほど失敗のリスクが上がって来る。
何にしたって最速で事を進める以外に私達は手段を持っていないのだ。ただし、真正面からではなく搦め手で、だけど。
「搦め手、とは言うが人間界では特殊部隊などが強襲作戦を実行する時によく使う手段ではある」
「つまり、実戦で友好的な手段ってことね」
「電撃戦、とも言うやつか」
隠密行動からの奇襲、強襲作戦といったところか。妖精界では戦争もほぼ無かっただろうし、こういった軍事作戦においては人間界出身の魔法少女の方がナチュラルに発想が浮かぶのはありそうだね。
戦いの歴史や経験が活きて来るというのもどうかと思うけどね。少なく済むなら、そうなった方が良いだろうし。
「落下するポイント、時間、帝国王都の地図は頭の中に叩きこんでもらいますからね」
帝国の王都への侵入経路は複数用意してある。時間もバラバラにずらして侵入する予定だ。理由は簡単、リスクを減らすため。
最初に侵入を始めるクルボレレが敵に事前に察知されているか、それが分かってから順番に降下し、可能な限り侵入出来る人数を増やしていく。
もちろん、最初に降りたクルボレレがすぐにみつかった時点でこの作戦は失敗。
私達はドラゴンの背から降りることなく、その場を撤退する。クルボレレは残ることになるけど、彼女の脚なら一人であれば逃げ切ることはそう難しくはないだろう。
「地図持って行くのはダメなんですか?」
「持って行ったら捕まった時に居場所がバレちまうんじゃねぇか?」
「真っ先に捕まるなら私達ですし、ちゃんと頭に入れないといけませんね」
昴、リベルタ、リリアナの言う通り、地図の携帯は厳禁。理由もリベルタの言う通りでもし何かトラブルがあって私達の中の誰かが捕まってしまった場合、地図を携帯なんてしていたら目的地がバレてしまう。
これもリスクの分散という訳だ。こういうのは頭の中に叩きこんでもらわないとね。そこまで記憶するのが難しいというタイプは私達の中にはいないしね。
勉強するのが苦手なタイプはいるけど、全員必要なことに対する記憶力は人並み程度にはある。
なんなら勘や運だけでも目的地にたどり着けそうな人も何人かいるしね。降下が成功さえしてしまえば、集合場所に集まること自体は難しくはないと考えている。
「こんな面白そうな場所、こうじゃなくても真っ先に教えて欲しかったけどね」
「レクス兄さんとリアンシ兄さんに教えたら二度とそこから出て来ないと思ったので」
「手痛いねぇ。まぁ事実だろうけど」
事実なのかよ、と全員の脳裏に過っただろうことだけは確実だとして。集合場所はスタン君が隠れ家として利用していたという帝国の王城。その城壁にあるという大昔に利用されていたらしい整備用の休憩所。そこを改造した場所だと言う。
秘密基地のようなものだと言っていたけど、スタン君曰く帝王レクスにもショルシエにもバレていない安全な場所との本人は断言している。
そこに集合して、王城の中に直接侵入出来れば、これ以上の経路はない。
もちろん泳がされている可能性もあるけど、そもそもそこまで来れているなら、やりようがある。
何せ城壁内部まで来ているのだ。単に接触から戦闘開始までの時間が短くなっただけ。
罠の設置に関してもこれだけ人数が対処がしやすいし、連絡手段に関してもこちらに利がある。
基本的に先行するクルボレレにそのあたりも対処してもらうことになる。
本人も言っていた通り、色んな意味で大暴れしてもらうことになりそうだった。




