最後の作戦会議
「君達の使う装備などにもそれぞれアップデートを施している最中だ。この会議が終わることにはアップデートが終わっているだろう」
私達の中には『魔法技術研究所』による魔道具のサポートを大きく得ている魔法少女が複数人いる。
紫ちゃんの『紫水晶の片眼鏡』、舞ちゃんの『エンジンギア』、墨亜の『31式狙撃銃・改』がそれにあたる。
それぞれ、Slot Absorberを当時所持しておらず、別の方向からのアプローチで魔法少女を外部機器で強化しようという試みから生まれたものだ。
『紫水晶の片眼鏡』は敵の位置を捕捉したり、敵からの魔法や魔力の感知。味方の位置などを視覚的に補助してくれる物。
『エンジンギア』はシンプルな身体強化用のブースター。『31式狙撃銃・改』は名前の通りだ。
因みにその中でも『エンジンギア』はクルボレレの魔法具『ギアチェンジャー』と合体しているという特異な例の魔道具、魔法具であったりする。
クルボレレも強くなっているハズ。彼女の最高ギアは今どこまであるのか、期待してしまうわね。
「アップデートですか?」
「あぁ、特に昴君達の使う『思い出チェンジャー』はピットゥ博士が急ごしらえで作った文字通りの急造品。最適化や拡張性、整備性などは比較的度外視されていたからね」
更に昴達、メモリースターズの使う『思い出チェンジャー』にもアップデートが入ったのはいい誤算だった。
確かに、この『思い出チェンジャー』という変身アイテムは昴が人間界から持ち込み壊れてしまった『Slot Absorber』をピット博士が独自の解釈で修繕、改造を施した派生品だ。
東堂さんの言う通り、かなりの急造品であることは事実なのだけど。
そもそもそんな急造品。しかも見たこともない機械の仕組みを理解し、独自の解釈で修繕、改造までして安定した出力を出し続けられる物をピット博士は5つも製造している。
妖精界の研究者として史上稀に見る天才、と評価してなんの遜色もないだろう。
事実、ピット博士が『魔法技術研究所』に出入りするようになってから、研究は飛躍的に進んだという話を噂で聞いている。
今回の隠密行動用の魔道具の製造にも深く関わっているだろうし、このアップデートにも当然主任者クラスで携わっているハズだ。
でなければ、ここに来てこれだけのアップデートが間に合うわけがない。
「ほほほ、ここまで昴が戦うようになるとなれば、もっと安全で高性能な物にしてやらんとな」
「色々な物を見直しておいた。変身時間の短縮、スーツの強度アップ、魔力効率の強化なんかがメインだ。使い勝手はほとんど変わっていないから、戦闘の際に戸惑うということは無いだろう」
自慢の髭を触りながら、ピット博士はニコニコとしている。
東堂さんの言うことが本当なら、敢えて身体強化系は弄っていない様子。
ここに来て使い勝手が変わってしまったら、昴達が戦闘中に戸惑ってしまう可能性を考慮してのことか。
流石だ。私だったらそんなこと気にもせずにアップグレードしてしまうに違いない。
そういう言わない配慮がしっかり入っているのが本当に仕事が出来る人だなと思う。
「すっかり私の事情に巻き込んでしまったね。最初以来、直接助けてあげることも出来なくて、申し訳ない」
「大丈夫だよ。それに、巻き込まれたんじゃなくて私が自分で首を突っ込んだんだから、私が責任を持ってやるべきことをやるよ」
「……そうか。気を付けて行くんだよ。必ず、無事に帰って来なさい」
「もちろん!!」
ピット博士の中では葛藤があったのだろう。少なくとも、戦うという選択肢のキッカケを与えたのはピット博士だ。
『思い出チェンジャー』が無ければ、昴は戦力としてカウントされず、人間界に連れ戻されていただろう。
でも、『思い出チェンジャー』が無ければ昴は死んでいた可能性も高い。
メモリースターズの面々は誰1人としてここにいなかったハズ。
リベルタさんに至ってはビーストメモリーの影響を長時間受けたことで一体どうなっていたか。
敵として私達に倒されていた可能性すらあるのだから、きっとこれが最善なのだ。
孫のように可愛がっているだろう昴を心配する気持ちと、真っ直ぐな昴の意思を尊重する気持ちの中で送り出す決断をしてくれたピット博士には心からお礼と賛辞をこの戦いが終わった後に贈りたいと思っている。




