最後の作戦会議
勿論、この配置に穴が無いわけじゃない。本来ならここに何百人もの妖精達が戦力として加わわっているハズだった。
魔法の実力で言えば、妖精界でもトップクラスなのが妖精族。高い魔力と魔法操作能力から放たれる魔法戦力こそ、妖精界での戦闘能力に直結する。
「これだけの戦力を揃えても、妖精の皆が抜けちゃった穴は埋めきれないんだね」
「人数が人数っすもんね……」
「公国軍としても、今回ばかりは妖精族の兵士たちは別途待機させる他ないのは歯痒い限りだ」
単純な頭数としても、貴重な戦力としても妖精族がこの作戦に最初から参加するのが難しいのは中々に辛い。本来の作戦では当たり前だが、彼らがいることを前提にして計画されていた物であって、今共有されている作戦は代替案でしかない。
急ピッチで再構築し直したモノはどうしたって穴が出来やすい。私達の中でも懸念は出るけど、これ以上にすることもまた難しい。
「国境付近に軍を展開して、帝国軍のリソースを奪う。そして、極力この国境付近では戦闘行為を行わないというのが1つの肝です」
「戦わないの?」
「極力、ですが。これはあくまで威圧です。睨み合い出来るだけ長い時間続けてもらうのが理想的です」
そして、今回の作戦で最も難しいところはここだ。この国境線での軍の集結で、極力戦わないという選択肢を取り続けられるか。
一触即発の雰囲気を出し、互いに高い緊張感を維持しつつ、しかし決して戦わない。こんな芸当は冷静に考えれば不可能だ。
これからまさに戦うというタイミングで長時間の睨み合いを続けるというのは難しい。
ちょっとしたきっかけで小競り合いが始まり、全面的に戦闘が始まってしまう可能性の方が断然高いと言わざるを得ない。
優れた軍師と高い統率力が双方に必要だと言える。本来はここをカレジに任せるところだったんだけど、妖精族の彼は今、パッシオ達と共に私達から離れている。
「出来る打算はあるのよね?」
「一応、ね」
普通に考えれば敵対する国の軍隊が目の前にいて、なんの小競り合いも起きないのはほぼ無理だ。
何かしらの衝突は起きることだろう。
これをどうやって最低限に抑え込むのか。ここの打算が無ければ荒唐無稽、絵に描いた地図、机上の空論。
色々言い方があるけど、無理難題が1番伝わる言い方かな。
一応、打算はある。酷く人任せな、単なる予想に過ぎないのだけどね。そんなものに頼るしかないくらい、時間が無い。
悠長にしていれば、また妖精達が獣に戻されてしまう。それをどうにかするには、帝国とショルシエに戦いを仕掛けるしかないのだ。
だから、本来はもっと時間をかけて見極めたかった。
ズワルト帝国の帝王、レクスが一体何を考えているのかを。
「その言葉、信じるわよ」
朱莉からのプレッシャーに苦笑いを返しておく。こういうのは厳しいからね。
ただ、帝王レクスと直接言葉のやり取りをした私達王族の3人の中にはある一定の疑念が胸の中に渦巻いている。
疑念というより、もしかして?という淡い期待なだけかも知れない。
だが、それを証明する手立ては本人に聞く他無い。真意を聞くのはスタン君の役割になる。
私達のその感覚合っているか、それを証明出来れば国境線での睨み合いは全て杞憂に終わる。
「突入の先陣は、まぁクルボレレか」
「任せてくださいっす。暴れてやりますよ」
帝国の王城に突入するメンバーはいつもの、と言えば良いだろう。
そこに昴達メモリースターズの新顔が加わったカタチだ。
番長はいつも通り後方での総指揮を取ってもらう。将軍のようなものだ。いざという時は本人がバリバリ戦えるというのも安心感がある。
先陣を切るのは我らが最速の魔法少女、クルボレレ。彼女が最速で切り込み、王城の中を引っ掻き回してから、私達も突入していくことになる。
「僕は真っ先に兄のところに向かいます」
「そこで『神器』を奪取するのが最初の目標です」
私達が直接関与する中で1番最初の作戦目標は、帝王レクスの持つ『神器』の奪取。
これが出来なければ私達にそもそもの勝ち目はない。さっきも国境線での睨み合いも、これを手に入れられるかどうかであらゆる話が変わって来る。
帝王レクスの真意の確認と『神器』の奪取。最初にして最大の難所かもしれないこれを如何に素早く、確実に行えるだろうか。




