最後の作戦会議
作戦会議、とは言うけれど正確には計画された作戦の最終確認と認識の詰め作業。というのが正しいだろう。
意見を出し合ったり議論したりと言うよりは、紫ちゃんや私、番長、雛森さんなどで立てた計画を主要メンバーに周知させ、頭の中に叩きこんでもらい、疑問があれば質問してもらうという感じだ。
「公国軍、レジスタンス改め王国軍は基本的にそれぞれの国土から帝国領地ギリギリまで進軍するという形で行きます」
「どういう意図だ? 首都や各街に配備した方がいいような気もするが」
「単純に攻め入るぞ、という意思表示です。今までは侵入してきた帝国関係者やショルシエの息がかかった者達を排除する。つまり防衛に重きを置いていましたが、攻める姿勢を見せることで、帝国側に防衛の機運を高めさせるのが狙いです」
「戦いと言うものを長くやっていれば分かると思うが、攻防と言うのは多少なりとも攻撃のターン、防衛のターンというのが存在する。規模が大きくなればなるほど分かりにくくはなるが、基本的にその性質は変わらない」
戦い、というのはターン制というのは極端な表現ではあるものの、攻撃に転じるタイミングと防衛に転じるタイミングというのが必ず存在する。
個人戦で言えば連続で攻撃行動を続けられれば攻撃のタイミング。それを受けて捌くのが防衛のタイミング。
そのタイミングを見極め、逃さず、攻撃と防御を的確に切り替える判断能力の高さが戦闘センスの高さと言っても良いだろう。
これは多人数が一斉に戦う戦争ともなると、流石に複雑化するためその性質は薄くはなるものの、その性質そのものが消えるわけではない。
敵軍が油断した瞬間、奇襲、敵陣を突破した瞬間などなど一気に攻勢に出る瞬間。逆に防衛に徹し、機会をうかがう時間もある。
戦争の場合、その機運を見逃さないのが軍師。或いは参謀と呼ばれる役職の人々だ。私達の中だと紫ちゃんとカレジがそれに当たる。
「軍隊を用いて、攻撃の気配をちらつかせるというのはそれだけで圧力になります。帝国側も軍を動かし、対応するしかありません」
「成程、リソースを奪って妙なことをさせにくくするのね?」
「そういうことです。軍隊と言うのはとにかく動かすためにコストがかかります。本気で戦うかもしれないともなれば、その人的、金銭的、物資的コストは相当な規模です。それを二カ国相手にやらなければならないともなれば莫大なコストを要し、それ以外のことをするためのリソースを削ぐことが出来ます」
コストは買う値段。リソースは持っているお金の総額と思えば良い。コストがかさめばかさむほど、リソースは削られ、やれることが減って行く。
無限のリソースを持っている存在なんて無い。どんな相手にもリソースの限界値が絶対にあり、高いコストを支払わされると残りのリソースで出来ることは減るという訳だ。
軍隊を動かすというのは帝国に高いコストを支払わせ、リソースを削るには最も効率のいい手段ということ。勿論、こちらも軍を動かすので、高いコストを支払っているものの私達の本命は軍ではなく、今ここにいる少数精鋭達だ。
これをどうやって敵の親玉がいる帝国の王城まで迅速に送り届けるのか、という方が私達側としては難題であったりする。
「スフィア公国、ミルディース王国、竜の里、魔法少女協会と4つの勢力が強い同盟を結んでいるからこそ出来る芸当だね。普通ならこんなやり方出来ないよ」
「ドラゴン達が手伝ってくれるのが本当にありがたいです。おかげで手薄になりがちなところをドラゴンが警戒するだけで相手は下手なことを出来なくなりますから」
リアンシさん、スタン君の言う通り。こんな芸当は2つの国と1つの地域、1つの組織。計4つががっぷりと肩を組んで足並みを揃えられる強固な同盟なんてそうそう無い。
同盟と言うのは基本的に1対1で結んで、結果的に網の目の様に繋がり、決まり事を作って関係性を強化することであって、お互いの持っているリソースを共有したりすることなんてほぼほぼ無いと言ってもいいと思う。
リソースの共有というのはリソースの総量を明かすってことだからね。いくら同盟とは言え、普通は同盟関係でも手の内は明かし過ぎないのが当たり前。
ここまでやるのはショルシエという共通の敵の存在がそれだけ私達の中で絶対に倒さなければならないとされているからこそだ。
仮想敵とかではない、絶対に排除しなければならない敵に対してこっちもなりふり構っていられないのだ。