女王
「緊張して来た……」
私たちにはファルベガと名乗っていた少女ピリアがショルシエの下から逃げ出して来たのを保護してから数日が経過した頃、私はいつもよりもとびっきり着飾って出番を待っていた。
「今さらか?」
「急に実感して来たってやつだ」
控室に護衛として一緒にいてくれた千草と要ちゃんの2人に茶化されながら、今日と言う日がとうとう来たのかと思う。
ミルディース王国の王家の血筋を引く者として、私は国王の座に就く決断をした。今日はそれを民衆に発表する大事な日だ。
最初は全ての事が解決してからにしようかと思っていたのだけれど、女王になることを光お義母さんに連絡したところ、出来るだけ素早く民衆に知らせるようにとの助言を貰ったのだ。
国政に関しては国会議員をしている光お義母さんの方が絶対に私より詳しく知っている。特に人心掌握に関しては私の知っている中では圧倒的で、私より王座に相応しいまである女傑だ。
政治の面から私たちに手厚いサポートをしてくれている光お義母さんの存在は大きく。私たちがアレコレ自由に動けるのもお義母さんが国内から国際的な法やルールなどを整備してくれるからこその自由度には私達は頭が上がらないってわけ。
「変じゃない?」
「胸を張って無いから変になるんだ。全く、パッシオがいないと変なところで自信が無くなるな」
「早く戻って来てもらわないとね」
そんなわけで、今日は私にとってもミルディース王国にとっても重要な一日になるのは既に確定事項。
今、まさにブローディア城の城下にはこの王都サンティエにいる王国の住民たちが私からの重大発表という触れ込みにまだかまだかと待ちわびているという状況。
こんなの誰だって緊張するに決まっている。パッシオのいるいないなんてもう関係ないよ。だって学校の壇上で何か発表するとかとは人数も違ければ、その内容の重さも違い過ぎる。
「NPOやらNGOの代表やってるんだ。大人を大勢束ねる立場なのはそう変わらないだろ」
「会社と国は全然違うけど?!」
「あははは、緊張し過ぎてテンションおかしくなってておもしろ~い」
千草の例えに思わずツッコみを入れて、他人事だと思ってケラケラ笑う要ちゃん。同い年で高校ではクラスメイト。毎日顔を突き合わせていたからこその無遠慮さが私達の会話には溢れていた。
「しかしまぁ、光義母さんは相変わらずだったな。普通、娘が国王になるとか言い出したらひっくり返るだろ」
「そこはまぁ、光お義母さんだし……」
一般家庭の出身から、検察官としてバリバリ腕を鳴らしたあとに諸星家の次男と結婚して、諸星家の中でもその敏腕を振るいまくった後に当時は防衛省の管轄だった魔法少女や魔法に関わる事柄を取り扱っていた省庁である魔法庁を事実上の解体させ、『魔法少女協会』を設立。
魔法少女という存在を国際レベルで保護し、同時に訓練や勉学、交流を活発にさせることで健全な魔法少女を育成し、魔獣被害、魔法犯罪に迅速に対応するという今の魔法少女の在り方を決定的にしたのも光お義母さん。
そして、その会長の座をさっさと退いたと思ったら次は国会議員として立候補。あっという間に当選したと思ったら、国会でもその敏腕と言う名の大鉈を振るいまくる。
まさに女傑。歴史に名を刻むことは確定している人なのは間違いなし。このまま行けば、近い将来の日本の総理大臣は光お義母さんにもなり得るレベルの快進撃を続けているのだ。
そんな人が娘の1人が異世界の国の女王になります、なんて言っても驚きはしないのは納得と言いますか……。
「それどころか、やっとその気になったの? って言われたんだよね」
「相変わらず、どこまで見通せてる人なんだか……。墨亜の未来視の能力より、よっぽど未来を視てるだろ」
「もしかして、墨亜ちゃんの目は本当に遺伝だったりして」
好き勝手言って、ワハハハと笑った後に私たちは顔を見合わせる。いや、本当にあり得そうなのが怖いんだよね。
光お義母さんの未来予知にも近い、物事を予想する能力はずば抜けているんだ。それに何度救われたのかは、私たちが一番よく知っている。




