罪と罰
『獣の力」の影響が軽減する話と、帝国の王様の話をしっかりと頭に叩き込んでからまた私たちは取り留めのない話で盛り上がる。
ただし、それも長時間になれば疲れてもくるしネタ切れにもなって来る。
「……」
「……」
自然と少しの間、無言の時間が生まれた。喋ることが無いって言うより、ピリアが何かを言いたそうにしているところもあるけどね。上手く言語化出来なくてもごもごしてるのを私が待ってるって感じ。
夜になったから、そろそろ戻らないと私も朱莉さんから文句を言われちゃう。けど、それを差し引いてもピリアとの時間は大事にしたい。
ピリアが伝えようとしてくれている言葉を私はじっと待った。
「ごめん」
零れて来た言葉は何度目かの言葉。やっぱり、ピリアの中にあるのは後悔と悲しさなんだと思う。
ピリアは、間違えた。それもかなり致命的な間違いだ。
人間、ちょっとくらい間違ったって大丈夫。なんて言葉があると思うんだけど、ピリアのそれはちょっとでは済ますことは出来ない。
やったらいけないワンミスというのは、残念ながらあるのだ。たった一回のミス。回数は同じでも、致命的なワンミスをピリアはしてしまっている。
「スバルに謝ったからって、何にも解決しないのは分かってる。でも、ごめんしか、何て言ったらわからなくて……」
「……」
ピリアがしてしまったワンミスとは、ショルシエの下からすぐに離れなかったことだと思う。
それが出来たかどうかで言えば、きっと無理だったと思う。『災厄の魔女』、『獣の王』などの異名を持ち、あらゆる人から恐れられているショルシエからの直接の呪縛から、子供が逃げられるわけが無い。
身体的にも、魔法的にも、精神的にも無理だよ。きっと、誰が捕まっても結末は変わらない。
ピリアの様に都合の良いように操られてしまうことになるんだと思う。
それでも、それが致命的なワンミス。ここが全てで、ここをどうにかする以外にピリアがショルシエから逃れる術は無かった。
だから、ピリアはその時に逃げなければいけなかった。それをしなかったピリアがその後、ショルシエに誘導されてさせられたことは私もよく知ることだ。
「許さない」
だから、私の返す言葉はこれだ。ピリアのやって来た事は、許さない、許せない。許しちゃいけない。
ピリアの罪は何らかの罰で清算されなければならない。これが、法の中なのか、そうじゃないのかは分からないけど、少なくとも私個人の感性で言えば、ピリアのして来た事は許せない。
ピリアは人を傷付け過ぎた。
「……そう、だよね」
私と面と向かって言われたことで、ピリアの表情は更に曇る。それだけのことをしたんだ。私が許したからってピリアが満足するだけで、何も解決していない。
これはピリアが自分で解決しなきゃいけないことだから。
「だからピリアがちゃんと罪を償えるまで、私が一緒にいないとね」
「え?」
「だって、誰かが見て無きゃダメでしょ? ピリアが罪から逃げないように私がずっと見てるよ」
私に出来ることの限界は、精々こんなところだと思う。ただ、見ているだけだ。手伝う訳じゃない。私はピリアの贖罪の証明人になるくらいしか、出来ることは無い。
友達として、せめて許されるのはここまでだ。敢えて他にも付け足すなら過剰な私刑からピリアを守る意味もあると思う。
恨みと憎しみで人を殺すのは簡単だ。それで人を殺してしまう人は世界中にいる。ただ、それはしちゃいけない。憎しみと恨みの連鎖もそうだし、それをしたところで誰も救われない。
死は救済じゃない。生かして生かして、限りある貴重な命を費やさせて、反省と後悔をさせるのが贖罪なんじゃないのかな。
それでもどうにもならない人は、もう牢屋に閉じ込めておくしか無いよね。死刑も含めて、それは最終手段で、それは法律と言うルールの中で行われなければいけない。
そうじゃなきゃ、私刑で人が簡単に殺されちゃう。私刑の正当化は殺人の正当化だ。適当な理由を付けて私刑で人を殺すことが許される世の中なんて、殺伐として生きている心地がしないと思う。
「この戦いが終わったら、一緒に旅をしようよ。ピリアが許されるまで、ずっと」
「……スバルは、それで良いの?」
「うん。だって、私の大事な友達だもん」
ニコッと笑って答えたら、ピリアが号泣してしまってお話どころじゃなくなっちゃった。おろおろとピリアをなだめる私と、ぼろぼろ泣くピリアとで部屋の中はちょっとしたカオスになっていた。




