満ち欠けた日常
そんな風に考えながら、私達は割と黙々と勉強会を進めた。定期的に理解が追い付かなくなった優妃さんに解き方を解説してあげたり、千草に解き方のヒントを出したり、美海ちゃんから答えの確認を頼まれたりしたくらいだ。
意外なのは駄々をこねていた優妃さんが音を上げなかったこと。
正直、30分もしたら文句を言いだすくらいに思ってたから、理解さえ出来ればちゃんと集中は出来るのだと思う。
多分、地頭自体は悪くないのだ。良くも悪くも、興味のある事や理解の出来ることにしか集中の矛先が向かないタイプなんだろうな。
「おーい、そろそろ下校の時間だぞー」
「はーい」
やがて、見回りの先生から下校時刻を告げられる。時刻は18時半。10月に入ったこの季節はもう空は暗く染まり切っている。
しとしとと降っている秋の長雨の雲も相まってなおさらだ。
「だぁーっ、つっかれたー」
「もう学校が閉まる時間か」
勉強があまり得意でない組は揃ってグッと伸びをしてから席を立ち、片づける準備を始める。
皆で机を元の位置に戻し、忘れ物が無いかチェックをする。まぁ、学校に一日くらい忘れたって困るのはスマホと財布くらいだ。ま、私はスマホしか持ってないのだけど。
「どうだった、勉強は?」
「真白のノートめっちゃ分かりやすいな。ちょっと借りても良いか?」
「んー、明日一度返してね。授業で使うし」
「おっけーおっけー。んじゃちょっと借りてくぜ」
割と捗っていた様子の優妃さんに今回の勉強会について聞いてみると、本人からしても中々好感触だったらしく、意外にもノートを貸してもらえないか聞いて来た。
私としては一日くらいなら何ら問題が無いので、快く貸し出す。優妃さんの勉強に対する姿勢がこれをきっかけに変わったりすれば最高だ。
「いいなぁ~、私も貸して欲しい~」
「私もこのノートを借りていいか?」
「千草は後で私が教えるから。はい、美海ちゃん」
「ありがと~」
千草も復習用ノートの貸し出しを申し出て来たけど、千草は同じ家に住んでるんだから私が直接教えればいいだけの話だ。
それよりも美海ちゃんに貸し出した方が有意義だろうから、快く美海ちゃんにもノートを貸し出す。
バインダーを開いて、ペラペラとページをめくりながら、本当に分かりやすいよねぇ~なんて言ってくれているのは何と言うか少しこそばゆい気分だ。
まだ褒められるのには慣れないなぁ。
「真白に直接か……。何と言うか、スパルタそうだな……」
「ビシバシ行くよ~」
「勘弁してくれ」
両手を上げて降参を示す千草にだが、お互い冗談なのはある程度分かっているので笑いながらだ。
いくら私でもついてこれないくらい相手に努力を強制はしない。私は私の限度、相手には相手の限度があるのは分かっているつもりだ。
……前に君は自分に課す理想と努力が大きすぎると叱られたことがあるけれど、そうでもないと思うんだけどなぁ。
大きな理想に近付くためには、死に物狂いの努力が必要だと思うんだけど、そう言い返したらそれはもうこっぴどく叱られた。なんでだろ。
「真白~、早くしろよ。帰るぜ」
「見回りの先生に怒られちゃうよ~?」
「あっ、ごめーん!!いこ、千草」
「そうだな」
マフラーを巻き終わった後、そう言って手を握って来た千草の手の握る力が、なんだかいつもより強いような気がするのはなんでかなと思いつつ、白のマフラーをたなびかせて昇降口まで来たところで、一つ私はとっても重要な事を思い出す。
「パッシオ!!!!」
「あっ」
今度は慌てて職員室までダッシュしてパッシオを回収。また大慌てで昇降口まで戻る。はしたないけど許して欲しい。時間過ぎるとセキュリティ掛けられちゃうし。
「キュウッ」
「ごめんね。明日は勉強会始める前に迎えに行くから、ね?」
ギリギリ思い出したけど、今回も物凄く拗ねてる。ごめんって、ね?毛づくろいしてあげるから、ほら。膝枕にする?マッサージもしようか?ねー、ごめんって。