罪と罰
「はー、笑った笑った」
「内容は全然笑えることじゃないけどね」
悪の親玉に拉致されたのと、毒親からの虐待紛いのことで笑うとかどうかしてるよ。笑っていいことじゃないんだけど、なんかおかしくなっちゃったよね。
何て言うか私達の人生しょうもなさ過ぎておもしろいみたいな感覚。箸が転がっても面白い歳だと思ってもらうしかないね。
「お互いロクでも無いよね。もうちょっとマトモだったら良かったのに」
「でもそれじゃピリアに会えてないからなぁ」
こういう境遇じゃなかったら、私は妖精界に来ることになっていないと思う。私の初めての妖精の友達。今は『光』のメモリーとして一緒に戦ってくれているリュミーにすら出会えてなかっただろうから。
リュミーに出会えたのも、まともに一緒に遊ぶ友達もいなくて、家にも帰りたくない私が街の外れを徘徊していたからだ。
今思うと危険極まりない行為だ。街の外れなんて魔獣がいてもおかしくない場所に女の子一人で歩き回ってたわけだから。
でもそこでリュミーに会えたことも幸運だったし、そしてピリアとリベルタさんとリリアナさんに出会えたこと。憧れの魔法少女と出会えたこと。
全部必要なことだったと思う。私は今、一番幸せだって胸を張って言える。
「……恥ずかしげもなくよく言えたもんだわ。アンタのそういうところ、見てて気恥ずかしかったけど、今なら羨ましく思うわ」
「こっちなら取り繕う理由も無いしさ。思った事、感じた事を素直にやっているんだ。あっちだと取り繕ってないとやってられないし」
「なるほどね。天才には天才の悩みってやつだ」
「止めてよ。別に天才なんかじゃないんだからさ」
私は真似が上手いだけだ。本当の意味の天才っていうのは物事と物事を掛け合わせて新しい何かを生み出す人だと思う。もしくは今までの常識を無視してぶち破って来る人。
私はそのどちらでもない。私が出来るのは天才たちが作った物をくっ付けて自分のモノの様に振舞うことが出来ることだけ。
オリジナルとコピーじゃ、価値が違う。
「そんなもんかしらね。贋作だって出来が良ければオリジナルの上を行きそうなもんだけどね」
「偽者の王様が本物の王様に適うと思う」
「そう言われると弱いわね」
こうやって自分達の身の上話が盛り上がる盛り上がる。お互い、話すネタには尽きることは無い。
何せ人生は常に波乱万丈と言ってもいい。過去に自分の身に起きた話を好き勝手に話すことほど面白いことも中々ないと思う。
いや、話してる内容は相変わらず酷いよ? ただ、こういう時にこういう雰囲気の時にしか吐き出せない話ってあるじゃん?
真面目で真っ当な人がいると、そんな話で笑うのなんておかしいとか余計な心配というか、押し付けして来るしね。
アレって要は酷い過去を持ってる奴は笑ってないでずっと泣いてろって意味に聞こえるんだけど、あの手の事言ってる人って何を考えて発現しているのか本当に疑問だ。
だって、私たちの不幸は私たち個人のモノだよ? それを私たちがどう扱おうが私達の勝手じゃんね。
そんな目に一度もあったことの無い、境遇に恵まれている人ほどそういうこと言うんだよね。あれは本当に不思議だよ。
「わかるわかる。なんか勝手に同情して、勝手に可哀想な人判定してさ。自分、善人ですよって面でしれっと幸せマウントとか保護してあげますよって上から目線して来たりするの」
「それショルシエじゃん」
「ホントだ。だから、なんで私これでショルシエの洗脳気が付かなかったんだってね。バカじゃん」
だんだん笑い方もケラケラからきゃはははという甲高いものに変わっていって、最終的にはギャハハハハって感じの女の子としてはあんまり人前でしない笑い方をする。
2人揃って手を叩きながら笑う様子はチンパンジーか何かだと思う。年頃の女子高生だから許してよ。たまにはこういうバカ笑いもしたいんだって。
今まで、こういう経験も殆ど無かったしさ。
「はぁあ。私たちって話せば話すほど、色々似てるよね」
「そりゃ話が他人には思えないわけよね。トゥランの街で見かけた時もさ、なんだかほっとけなくて声かけたし」
「チナちゃんとスクィー君もすぐ仲良くなってね」
「そういえばチナちゃん元気? いないみたいだけど」
チナちゃんは今は元々の飼い主のピットお爺ちゃんのところに戻ってる。一緒にいた理由もチナちゃんに付けた通信機でピットお爺ちゃんと連絡を取るためだったからね。
魔法少女達と合流して、ピットお爺ちゃんも魔法少女協会にある『魔法技術研究所』に招待されてからはそっちに着いて行っている。
私は戦う側だから、一緒にいると危ないしね。
「今度、チナちゃんにもスクィー君のこと教えてあげないとね」
「そうね。仲良かったから。悲しんじゃうとは思うんだけど、教えないのもね」
小動物同士、二匹は仲が良かった。だからこそチナちゃんにはスクィー君の死を伝えてあげた方が良いよね。
今すぐは、難しいけどさ。




