罪と罰
そうやっておかしくなっていった両親は信者の人々を同じような手口で囲い込んでいった。
いや、もしかすると両親も洗脳の被害者だったのかもしれない。どうにも3年前に『ノーブル』が起こした一連の事件の首謀者の人は創設時にいた人ではなかったようだし、『ノーブル』を利用して、S級魔獣『大海巨鯨 リヴァイアタン』を使って世界を征服しようとしていたらしい。
馬鹿げた話だけど、S級魔獣なら出来るだろうなって思う。何にせよ、私は当時その話を親族関係者として聴取を受けた時に聞いた。
魔獣信仰をしていた両親は、魔獣を崇める建前上、それを殺す魔法少女と魔法を毛嫌いしていた。
それに対して私は魔法少女に強く憧れていた。狂っていく両親とは真逆の正義の心と力を振るって人々を助ける姿に目をキラキラさせながら毎日のニュースを眺めていたのを両親は強く叱責した。
そして私に学業や部活動で結果を出すように強く求めた。『ノーブル』の中で高い地位にいる両親にとって、子供の私の出来というのは分かりやすく示しやすいステータスだったんだと思う。
特に子供を持つ親御さんや、ジジババには効くみたいだった。ウチの子はこんなに優秀なのだと。私たちが優秀だから、子も優秀なのだと。
子供を親のアクセサリー代わりにする最悪の行為だと思うけど、困ったことに私は大抵のことはそつなく熟すことが出来てしまった。
見たことはすぐ真似できた。勉強も運動も、私は模倣だけはやたらと得意だったのだ。
早いうちから自分より高いレベルの人達の模倣が出来れば、勉強も身体も同年代の子達よりもスムーズに土台が出来やすい。
勉強も身体も土台なんて早く出来れば出来るほど良い。大きくて強固な土台を先に作れば、多少の無茶も利かせやすいし、模倣するパターンが増えれば増えるほど引き出しが増える。
動画サイトがあったことも大きく影響した。あそこでは世界中のあらゆるプロ級の人が無料で自分達の勉強法やトレーニング法を公開していた。
それを見れば見るだけ、私の中に模倣のパターンが増えていく。後は実践すれば身につく。そうして土台が広がる。
おかげで、あっという間に私は神童なんて呼ばれて、両親の立場は更に盤石になっていく。そしてあらゆる優秀な人の意見や考えも模倣した私にとって、両親は歪なバケモノにしか映らない。
一度空いた溝はあっという間に大きくなって、私は逃げるようにお婆ちゃんの家に転がり込んだ。
代々神社の家系だったお婆ちゃんは新興宗教を始めた両親とは縁を切っていたし、何よりパワフルで私のことを守ってくれた。
「こんなんだから、マインドコントロールについては何となく分かるけど。ホント、惨いね。ピリアを見て思い出しちゃった。私は悪魔の子なんだって」
私は人を平然と貶める親から生まれた忌子みたいなものだ。学校でも神童だのなんだの言われてる裏で、クラスメイトの親からひそひそと陰口を言われていたのはよく覚えている。
沖縄は小さいからさ。噂はすぐ広まるんだよ。両親の悪名はそのまま私の悪名だ。
私の見た目上の成績がやたらめったら優秀なせいもあって、僻み妬みもあったしね。最近は出来るだけおバカキャラを演じてたんだけど、中には通じない子もいて本当にめんどくさかった。
「そんな中で妖精界に来てさ。周りは私の事情なんてちっとも知らない人ばっかりだし、私が人間界で得た知識とか経験なんてここでは欠片も役に立たないからさ。友達が出来る度に嬉しかったんだ。ここでは、皆真っ当に私を評価してくれるって」
「ちょちょ、ちょっと待って、もういきなり色々浴びせかけられて、ちょっとストップ」
そこまで思いを馳せたところで、ピリアから待ったがかかった。ちょっと話過ぎちゃったか。
始めて話すことばっかりだし、パンクするのも仕方ないよね。それに私のことなんて話しても、か。
自分語り乙~ってね。
「妖精界? 人間界? 『ノーブル』? って何? ってのもあるんだけど、スバルってそんな過酷な人生歩んでたの?!」
「あ、そっか。そこから話さなきゃいけないんだっけか。えーっとね、まず私の種族は人間って言って、妖精界と人間界て言う二つの世界があるんだけど――」
「そこは後でで良いわよ!! そんな呑気そうな性格しておきながら、重すぎるでしょ!? サラッと話す内容じゃないわよ!!」
えー、そうかなぁ? 私としてはこれより酷い人なんていくらでもいると思ってるし、ピリアだって結構酷いじゃん?
真白さんだって凄いし、結構みんなこんなもんなんじゃない?
「んなわけあるか!!」
「えー」
鋭い突っ込みがピリアから来て、私がわざとらしく反応すると少し間をおいてどちらからともなくケラケラと笑い声が上がる。
なんだか、悩んでたこととか、今までの事がバカらしくなって来たよね。今がこんなに楽しいのにさ。




