罪と罰
「はあぁ……。緊張した」
「そう? 真白さんすっごく優しくて良い人じゃん」
真白さんがピリアを匿ってくれた部屋から退室したのを見送ると、ピリアは大きなため息を吐いて脱力していた。
そこまで緊張する人じゃないと思うけどな。むしろ真白さんは誰にでも分け隔ての無い人でTPOはともかくとして、礼儀とかにうるさい人じゃない。むしろ徹底した実力主義、才能主義者だ。
まぁそれはそれで恐ろしい人だとは思うけどさ。だって実力とか才能が無い人の評価は上がらないからね
一歩間違えたら排他的な人になりかねないけど、あの人はそこのバランス感覚がとてつもなく良い印象がある。
仕事をするなら実力と才能だけど、人付き合いではそれ以外の長所短所もしっかりみている感じ。
中々いないよね、そういう人。やっぱ知見が段違いなんだろうなぁ。見えてる世界が違うよ。
「アンタ、王族相手にしてる自覚ある? あの人は将来王様になる人なのよ? 普通、あんな馴れ馴れしくしていい人じゃないんだからね」
「認めてくれてるから良いんだよ」
「そういうことじゃ……。はあ、今はそんなこと言ってる場合じゃないわね」
ピリアからすれば不敬も不敬なんだろうけど、そもそもピリアは真白さんと戦ってるし、不敬具合ではそっちの方が上だよ。なんて言ったら怒られそうだし言わないでおこう。
それよりもピリアはベッドの上で、痛むだろう身体を動かせるだけ動かして、私に頭を下げていた。
「ごめん。私が何もかも間違ってた」
「謝らなくても」
「逆。謝ったところで、私がしでかしたことは変わらないし償われない。これは私が赦して欲しいだけのただのワガママ。スバルの優しさにつけ込んでるだけの最悪な行為」
謝罪を受けて、そんなことをしなくて良いと言うけど、ピリアはそれ以上に自分を卑下にする。
良いことではないけど、私にそれ以上言う事も出来ない。ピリアがして来たことは私個人が赦して良いことじゃないし、私に判断出来ることでもない。
私が出来ることは私とピリアの関係だけについてだ。それ以上は私には手出しの出来ない領域だ。
「ホント、バカだよね。なんでショルシエになんて着いて行っちゃったんだろうね。言われたこと丸のみにしちゃってさ」
「丸飲み? 襲われたところを保護されたんじゃなくて?」
「ううん。なんか気が付いたら魔車の荷台にいて、ショルシエのところに連れて行かれたの」
ちょっと考えれば良いだけだったのに、とピリアはこぼす。ただ私は更に嫌な予感がした。
本当に最悪かも知れない現実。確かに真白さんもこれ以上はって言うのも分かる気がする。もしこの想像これが本当なら、ピリアにとって何度目のショッキングな事実だろうか。
「その時に、村が襲われたって話を?」
「うん。スクィーはポケットの中に隠れてたからずっと一緒にいれたんだけど、村はもう無いって聞いて、帰るところはないなら仕事をやるって。お前は特別な存在だからな、なんてことも言ってたわね」
「……その時から、洗脳が始まってたんだろうね」
「お前は特別、なんて言葉。子供からしたら舞い上がっちゃう要素だものね。実際、浮足立ってた記憶があるわ」
多分。本当にただの予想でしかないんだけど、ピリアの村を襲った盗賊団自体がショルシエによるものなんじゃないかなって思う。
ショルシエに依頼されたのか、分身体がやったのか、そもそも攫って来ただけで村には何も起こっていないのかは分からないけど、ピリアは村が襲われたという事実だけしか知らない。
実際に見ていないことは起きているかどうかわからない。そう思い込ませることで、自分には帰る場所が無いと思い込ませて、そこに居場所と役割を与える人がいたら、確かに依存すると思う。
それがお前は特別だ、なんて言葉とセットなら尚更だ。
洗脳。マインドコントロール、か。怖いね。時間をかけて丁寧に丁寧にやると、人ってこんな簡単に都合よく操れるんだって思う。