最終準備
ピリアは3大国とは別のとある小国の生まれらしい。
妖精界の小国とは、3大国を分けるコウテン山脈に影響されない、3大国の外周を覆うように点在する地域の事を指す。
地域ごとに3大国の庇護を受けつつも、その地域の権力者に自治を任せる。まぁ、中世ヨーロッパとかの貴族領、公爵領みたいなものだという認識が近いんだと思う。
大きな国のバックアップを受けながら主権を守る者たちの領土を小国、と呼んでいるらしい。
細かい名前があるにはあるらしいけど、ここでは割愛しよう。そこはあまり関係が無いらしい。
ともかく、ピリアはそこの生まれだった。地位は平民だったが、決して裕福な暮らしでは無かったそうだ。
むしろ、貧乏な暮らしをしていたという。
「私の一族には古い言い伝えが残っていたんです」
「言い伝え?」
「はい。自分達はミルディース王国王家の一族に連なる者だ、という言い伝えです」
思わず、口からあー、と特に感情も籠っていないような声が出てしまう。その、なんて言えば良いんだろう。
よくある自称言い伝えと言うか、もうオブラートに包まずに言うと、どこかのタイミングでご先祖様の誰かがついた大ウソが何故か代を成すごとに尾ひれを付けて、まるで本当の事の様に語られてしまう。
そんな、たまに聞くような話を実際に聞くことになるとは思わなかったからだ。
日本でも、やれウチの一族は藤原の末裔だの、源氏の末裔だの、北条の末裔だの、どこぞかの城主の末裔だのなんだの。
本当のことも勿論あるし、証拠だったり家系図が残っていたりすることもあるけど、実際はフタを開けてみれば、ちょっと喋ったことがあるだけで所縁があるとか、なんだかそれっぽい物を持っているだけで偽物だったりと。
まぁ眉唾な話も多いのだ。
昔から、人は見栄っ張りだという訳だ。そんな話であることは、十分にあり得たけどショルシエが絡んでいるなら本当の可能性だって十分にあり得る。
「この薄いピンクの髪と、水色の目がその証拠だって言っていました。血はすっかり薄まってしまったけど、私達は王族に連なる家系なのだと」
確かにピリアの髪は薄いピンク色。瞳も淡い水色で、全体的に私の髪色と瞳の色をパステルカラーにしたような色だ。
血が薄まった結果、そういう色になったというのはまぁ、一定の納得感はある。妖精の子孫への遺伝子伝達がどういう仕組みか知らないから憶測でしかないけど。
言われてみれば、確かにそうかも? くらいの話でまだまだ信じがたい話ではある。
「それとショルシエの話が、何の関係があるの?」
「『繋がりの力』や王族の血筋、そのものを狙った。ってところかしらね」
そんな嘘か真かわからない話だけど、仮に狙う目的があるとするのなら、その血筋だろう。
ショルシエからすれば、直接王家に接触することなく、王家の血筋と『繋がりの力』などについて調べる絶好の機会かもしれない。
「だと思います。ホントかどうかは、知る由もないですけど」
「……ミルディースの『繋がりの力』を知っているのね?」
「はい。文字通り繋げる力だとだけ。そして、それぞれの王家にも別の『繋がりの力』があるとも聞いています。私の家はミルディースに連なるので、家が分かれた時に『繋がりの力』が伝承することが無いように封印をされんだとか」
他の国は知らないけど、ミルディース王国は王様にしか『繋がりの力』は許されない、まさに王の象徴たる力だったようだ。
今は真広も使えるけど、本来なら私か真広のどちらかは『繋がりの力』を封印して使えなくするのが伝統。有事だからそんなことしないけどね。
公国も恐らくそうだ。帝国は逆に封印することは無いらしい。おそらく、断つ『繋がりの力』はそもそも『神器』が無いと意味が無いからだと思う。
帝国にとって、王の象徴は『繋がりの力』ではなく『神器』のほうだったわけだ。
そしてその能力の詳細を知っているのはその国の王族だけ。一般市民は『繋がりの力』という存在は知っていても、それが何なのかはさっぱり知らない。
それなのに、ミルディースの『繋がりの力』について、多少なりとも知っているとなるとピリアの家がミルディース王家に連なる家系だという伝承が急に現実味を帯びて来た。